急な出費への備えは預貯金じゃなきゃダメなの?【2014年 第5回】

2014年 第5回 急な出費への備えは預貯金じゃなきゃダメなの?- 最新ニュース解説。FPとして言わせていただくと…

菱田 雅生(ヒシダ マサオ)プロフィール

欧米と比較すると、日本人は資産を預貯金で保有する割合が高いといわれます。「貯蓄から投資へ」と促す政策も続いています。確かに、銀行から企業への貸出しがなかなか伸びていかないなら、個人からの投資を増やしてもらおうとする考え方は、けっして間違ってはいないでしょう。しかし、個人的には全く別の観点から、預貯金偏重の姿勢に疑問を感じています。「投資したほうがいい」のではなく、「預貯金ではもったいない」気がするのです。

 

 

 

 

もしもの事態(突然の退職、病気、ケガなど)に備えるためのお金

ファイナンシャル・プランナー(FP)の試験を受けるための教科書やテキストなどにも書いてあることが多いのですが、もしもの事態(突然の退職、病気、ケガなど)に備えるためのお金は、基本的には預貯金で持っておくべきだといわれます。

また、近い将来の教育資金の準備や、住宅取得のための頭金準備などにも、値動きのある株式投資信託などを利用するのは不適切で、元本の安全性の高い預貯金などで準備すべきだとされるのが一般的です。

確かに、これらの話は、教科書的には間違っていないと思います。値動きの大きな株式や株式投資信託などを利用して大きく値下がりしていた場合には、必要な資金を準備できないかもしれないからです。

しかし、絶対に預貯金じゃなければダメかというと、そんなことはないと思います。債券や株式、投資信託などであれば、遅くとも4営業日後や5営業日後、つまり1週間前後で現金化することは可能です。値動きによって評価益や評価損が出ているときは当然ありますが、現金化できないわけではないのです。

必要な資金を準備できない可能性が高まるのは、値動きが非常に大きな商品のみで運用しているような場合だけだと思われます。値動きの異なるさまざまな資産を組み合わせたポートフォリオ運用を行っているのであれば、ポートフォリオ全体の値動きはそれなりに小さくなっているはずです。必要な時に必要な金額を準備できない可能性は、それだけ低くなると考えられます。

そして、それらの金融商品であれば遅くとも1週間前後で現金化できるということは、ほとんどの不測の事態にある程度は対応できるはずです。突然病気になって一両日中に数十万円の入金を迫られることは皆無でしょうし、仮にそんな即日入金を迫られるようなことがあったとしたら、それは詐欺かもしれません。まずは入金を待ってもらえるように交渉し、即日入金が必要な理由を精査したほうが無難でしょう。そういう意味でも、預貯金として置いておくお金は、日常生活費としてすぐに出金する可能性の高い1ヵ月分の生活費だけでもいいくらいです。

預貯金の代わりにどんな商品を利用するのか

では、預貯金の代わりにどんな商品を利用するのかというと、もちろん幅広い分散投資をしたポートフォリオ運用を考えるべきですが、値動きの小さな商品で安全性と優位性を第一に考えるのなら、日本の国債がベターでしょう。国債なら、国が破綻しない限り安全です。 

そもそも、私たちの預金は、銀行から企業などへの貸出しに回されているわけですが、近年の預貸率(預金のうち貸出しに回されている率)は低下傾向にあり、銀行は預金を利用して大量に国債を買っています。つまり、私たちは預金を通じて間接的に国債を買っているわけです(もちろん、預金の全額ではありませんが)。その結果として国債よりも低い率の利息しかもらえないなら、直接国債を買ってしまえばいいと思うのですが、皆さんはどう思われるでしょうか。

平成26年6月3日現在、2年満期で0.1%弱、5年満期で0.2%弱、10年満期で0.6%程度という利回りは、過去に比べると非常に低い水準ではありますが、0.02%とか0.03%といった一般的な預金金利よりは高いですし、安全性もピカイチです。大手の証券会社であれば国債の在庫も多いので、相対的なコスト負担の重い個人向け国債ではなく、このような通常の国債(額面5万円単位)を買っておくのもひとつの方法でしょう。

また、きちんとしたポートフォリオ運用を考えるのであれば、さまざまな資産に分散したポートフォリオを作るためにも、複数の株式投資信託などを組み合わせて保有しておくべきです。内外の債券や株式、不動産、コモディティ(商品)など、さまざまな資産に分散投資しているポートフォリオを作るわけです。そして、資金が必要な時が来たら、少しずつ売却して手当てします。

その際、「評価損が出ているから売れない」などと思う必要はありません。さまざまな資産に分散されたポートフォリオだからこそ、タイミングによっては評価益が出ているものと評価損が出ているものが当然 あるはずです。どれを売るかを迷うのではなく、全体的に少しずつ売却して必要金額を用意すればよいでしょう。実際に筆者も、高校3年生の長男の塾の費用を今年の3月に複数のファンドを売却して準備しました。利益が出ているものと損失が出ているものがありましたが、高値安値のタイミングは予測してもなかなか当たるものではありません。必要な時に必要な金額を売却し、残りはポートフォリオ運用を継続していく。それがまさに効率よく長期運用していくことにつながるはずです。

もちろんこれは、筆者の個人的な考え方に過ぎません。正しい考え方かどうかも断定はできません。しかし、預貯金の割合を高めれば高めるほど、リスクが偏るだけでなく、もったいない運用になってしまうと思うのです。そんな考え方もあるということを理解いただき、少しでも参考にしていただければ幸いです。

 

 

 

 

  • コメント: 0

関連記事

  1. 横井規子 の『金融教育』現場リポート  第6回<特別支援学級>繰り返し学習で育てる!「お金を使う力」

  2. 「ねんきん特別便」対応マニュアル ~その②~【2008年 第2回】

  3. 配当に着目しよう!【2014年 第1回】

  4. DINKSの住宅購入の考え方【2011年 第4回】

  5. 九州・沖縄地方の財政事情と鹿児島市ならではの住民サービス【2012年 第12回】

  6. 柳井正とユニクロ(前編) 【2016年 第11回】

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。