【2016年 第3回 日銀のマイナス金利が抱える3つの危うさ】日米欧・金融政策の最新事情と展望
小松 英二(コマツ エイジ)⇒プロフィール
2月16日から日銀のマイナス金利がスタートしました。
黒田日銀総裁は、マイナス金利により金融機関の融資が増え、個人や企業のリスクを取った投資行動が活発化することを期待したいとしています。
しかしながらマイナス金利が続き、さらにマイナス幅の拡大に踏み込めば、期待される効果を打ち消す副作用も懸念されます。
今回は、マイナス金利が抱える3つの危うさ(副作用)を見ていきましょう。
金融機関の収益力低下は金融システムを不安定化させる
まず、マイナス金利幅の拡大が進むと、「マイナス金利幅の拡大競争(言い換えれば通貨安競争)」が誘発され、金融システムが不安定化し、最悪の場合に金融危機につながる懸念があります。
2月央のドイツ銀行(注:民間の銀行)の株価急落に端を発した“欧州の金融システム”の不安定化は、世界同時株安を引き起こしました。
ドイツ銀行は不良債権増加による財務悪化や不正取引による損害賠償支払いなどの事情を抱えていましたが、ECB(欧州中央銀行)によるマイナス金利の導入も大きく響いています。
広がりを見せるマイナス金利の導入やマイナス幅拡大は、世界的な規模で金融機関の収益力を低下させます。
財務などに不安を抱える金融機関の存在が指摘されており、その信用リスクが顕現化すれば、世界の株式市場などのマーケットに悪影響を及ぼすでしょう。
こうした不安に対する投資家の備えとしては、リスク許容度に照らした外貨投資比率のチェックすることです。
ここ3年程度続く米ドル高・円安で外貨投資への関心が高まっていますが、同比率を極端に高めている事例も少なくありません。
大きなニュースが世界中を駆け巡ると、不安に駆られた投資家は、株やハイイールド債などのリスク性資産を手放し、先進国の国債など安全資産に投資マネーを移す傾向があります。
その際に、日本円は買われやすい通貨(円高要因)であることは押さえておきたいところです。
金融商品の価格形成が不安定になる
2点目は、国債の利回りがマイナス(償還まで10年以下の国債<発行残高の約7割>の利回りまでマイナス)になることで、プロが投資における判断材料として用いる理論価格の算出が困難となり、マーケットの活力を削ぐ心配です。
マイナス金利により、「金利がゼロ以上」との前提で成り立っているファイナンス理論が適用しづらくなり、金融商品の価格形成が不安定になる可能性があります。
具体例を見ていきましょう。株価予想は、将来の収益予想をもとに、適正な株価がどのくらいであるかを算出しますが、その際に国債利回りを用います。
その利回りがマイナスとなると、現実には使えない過大な数値となります。
現場では、従来の計算式と異なる代替式を用いて算出していることでしょう。
デリバティブ(金融派生商品)の根付けでも同様の問題が起きます。
オプション取引(株などを予め契約した価格で売ったり買ったりできる権利の売買)では、オプション価格の計算式で「金利がゼロ以上」といった制約があり、ここでもマイナス金利が使えず、代替式を用いる必要があります。
財政規律確立が後退し将来の社会保障制度が不安定化する
3点目は、「財政規律確立」の機運が遠のき、将来の社会保障制度などを不安定化させることです。
通常、民間金融機関が政府から国債を引き受ける(購入する)場合、プラスの利回りを求めますが、昨今はマイナスの利回りで引き受けることもあります。
それは、日銀が長期国債の大量購入によって国債価格をかなり高値(利回りはマイナス)にキープしているからです。
民間金融期間は、政府から高値で引き受けても、日銀がさらに高値で買ってくれますので転売することで損をしません。
日本の財政は先進国の中でも突出して悪い状態ですが、異次元金融緩和やマイナス金利の導入により、財政ファイナンスは支障なく進んでいます。
しかし、1000兆円を超える国債発行残高のうち、日銀保有が3割を超える状態は異常であり、悪いことを先送りしているだけでしょう。
未知の領域であるマイナス金利は、不測の事態を引き起こす可能性もあります。
マイナス金利に関する情報はしっかりとフォローしていきましょう。
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