【2014年 第3回】任意後見契約 任意後見契約締結の実務について
三次 理加 ⇒プロフィール
「自らの判断能力が低下した時に備えて、任意後見契約を締結しておこう!」
そう思い立った時、何から準備すればいいのでしょうか?
本稿では、任意後見契約締結の実務について説明しましょう。
任意後見契約を締結する際に必要なこと
任意後見契約を締結する際に、決めておかなければならないことが2つあります。
1)誰を任意後見契約の受任者にするか?
2)任意後見契約で何をやってもらうのか?(代理権の範囲)
1) 誰を受任者にするか?
任意後見人になるためには、資格は必要ありません。そのため、家族や親戚、友人、弁護士や司法書士などの専門職のほか、法人も任意後見受任者として契約を結ぶことができます。また、任意後見受任者を複数とすることも可能です。
ただし、任意後見受任者が下記に該当する人の場合、家庭裁判所は任意後見監督人の選任の申立を却下します。(任意後見契約に関する法律第4条第1項3号)つまり、下記に該当する人は任意後見人になることができないといえます。
① 未成年者
②家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
③ 破産者
④行方の知れない者
⑤ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
⑥ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
自分の判断能力がなくなった後、自らに代わって財産管理や介護サービス締結等の療養看護に関する事務を行う人が任意後見人ですから、信頼できる人であるのはもちろんですが、本人にとって何が最善か?を常に考えてくれる人を選ぶようにしましょう。
そのためには、任意後見契約締結までに、何度も面会をし、お互いの意向をしっかり確認しておく必要があるといえます。その際、たとえば、身体が動かなくなったら○○施設に入所希望、かかりつけ医は○○病院、墓参りは年○回行きたい等、将来の生活に関する具体的な希望や金額等を記載したライフプランを作成しておくとよいでしょう。また、病院に行く時に備え、生まれてからこれまでの病歴等も記載しておくといいと思います。
一方、任意後見受任者となる人は、本人に契約能力があるか否かを確認するのはもちろんのこと、実印登録や任意後見報酬の支払い能力等の有無を確認しておきましょう。さらに、推定相続人を確認したうえで、その推定相続人から任意後見についての同意をもらっておくことをおすすめします。
2) 任意後見契約で何をやってもらうのか?(代理権の範囲)
第2回で説明したように、任意後見人にどのような事務を依頼するかは、契約当事者同士の契約によります。任意後見契約で委任することができる(代理権を与えることができる)のは、財産管理に関する法律行為と介護サービス締結等の療養看護に関する事務や法律行為(これを「身上監護」といいます)です。加えて、上記法律行為に関する登記等の申請等、公法上の行為も含まれます。
ただし、たとえば食事を作ったり、ペットの世話をしたりする家事手伝いや、身の回りの世話等の介護行為は対象外です。このような行為をお願いしたい場合には、任意後見契約とは別に「準委任契約」を結び、任意後見契約発効後も終了しない旨定めておくとよいでしょう。
さらに、入院・入所・入居時の身元保証、医療行為についての代諾、本人の死後事務(例:葬儀費用の支払い等)も代理権目録に記載することはできません。そのため、たとえば親族がいない等、本人死亡時に葬儀を出してくれる人が身近にいない場合には、任意後見契約とセットで「死後事務委任契約」を結んでおくことをおすすめします。
任意後見人にどのような法律行為や身上監護を代理してもらうのかを決めたら、任意後見契約案と代理行為を具体的に記載した代理権目録を作成します。その際、本人の希望に沿った代理権目録を作成することが非常に大切となります。そのため、事前に本人とよく話し合いをする必要があります。
代理権目録は、法務省が定めた付録1号様式と付録2号様式があります。前者は具体的な項目が既に記載されており、それにチェックを入れる書式となっています。後者は自由記述方式です。どのような代理権を付与するかは、付録1号様式や日本公証人連合会の文例(図表1,2)を参考に、将来発生する可能性のあることを予測して定めるとよいでしょう。
なお、任意後見契約締結時、本人に判断能力はあるものの、寝たきりなどにより日常生活上の事務処理ができない場合には、任意後見契約とセットで財産管理や身上監護に関する「委任契約」を結んでおくとよいでしょう。その場合「本契約は任意監督人が選任され、任意後見契約が効力を生じた時に終了する」旨の条文を入れておきましょう。任意後見契約とセットで委任契約を締結することにより、任意後見契約発効までの継続的な見守り支援が可能となります。
ただし、本人の判断能力が低下しても、受任者が任意後見監督人選任手続きを取らずに任意後見契約をスタートさせないこともあり得ます。そのような事態を防止するためには、委任契約書に「任意監督人の選任請求義務」を記載したうえで、受任者を監督する者を置いたり、受任者を複数にしたりする等の対策を講じることが必要となります。
次回は、「任意後見契約の実務」です。お楽しみに♪
この記事へのコメントはありません。