平野厚雄です。 私は社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(CFP®)として、中小企業の人事労務問題を中心に活動しています。
仕事柄・・・中小企業の経営者のみなさんとお話しする機会があります。
そこで、これから1年掛けて、『経営者を悩ませるよくある人事労務問題』を中心にお伝えしていきます。
平野厚雄⇒プロフィール
■アウティングとは
「アウティング」とは、性自認、性的指向、いわゆるLGBTQ((レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クイアやクエスチョニング)について、当事者の許可なく他の人に言いふらしたり、SNSなどに書き込みして暴露することをいいます。
厚生労働省の「働くLGBTQ+の実態調査」では、アウティングに関するデータが報告されています。この調査によると、LGBTQ+当事者の約15%が、職場で上司や同僚によって性的指向や性自認を無断で暴露された経験があると答えています。特に、大企業よりも中小企業でのアウティングのリスクが高い傾向が見られ、プライバシー保護に対する意識の違いが浮き彫りになっています。
LGBTとは
■アウティングはパワハラになります
自分で自分の性自認や性的思考について自己開示(カミングアウト)することは問題ありませんが、アウティングは「自分が」でなく「他人が勝手に行う」という点で大きな問題になります。このアウティングは、マネジメントにおいて絶対にやってはいけない1つであり、パワハラにもなってしまう可能性が大きいので注意が必要です。
パワハラには、パワハラに該当する6つの類型というものがあり、その中の1つに「個の侵害」という項目があります。そこには、 「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」と定義されています。 つまり、アウティングもパワハラにあたりうる行為であり、議論すべき問題だと厚生労働省は明確に示しています。
そして、厚生労働省の「働くLGBTQ+の実態調査」では、アウティングがLGBTQ+当事者に与える精神的・社会的な影響も指摘されています。具体的には以下のような問題が報告されています。
①精神的な負担増
アウティングによって、精神的な負担やストレスが増加するという報告が多く、これが原因で不安や抑うつ、職場における生産性の低下を引き起こすケースがあります。また、アウティングが原因で職場での居心地が悪くなり退職を余儀なくされることも少なくありません。
②キャリアへの悪影響
アウティングされた結果、職場での評価や待遇に悪影響が出ることがあります。例えば、上司や同僚が当事者を「違う目」で見るようになり、仕事上での信頼関係が崩れたり、昇進やキャリア形成に影響が出ることがあると報告されています。
③職場環境の悪化
アウティングが原因で、職場での人間関係が悪化するケースが多く、特にアウティングがいじめやハラスメントの一環として行われる場合には、LGBTQ+当事者が孤立感を抱いたり、職場でのパフォーマンスに悪影響を及ぼすことが懸念されています。
アウティングが世間で注目をあびるきっかけになったのは、2015年8月、一橋大学で起きた出来事になります。同性愛者であることをLINEグループで実名をあげて暴露され、当の本人は体調が悪化、大学等の周囲に相談しましたが適切な対応がとられず、結果的に本人は校舎から転落死をしました。翌年2016年に遺族が、大学等の責任を追及して損害賠償をもとめる民事訴訟を起こしたことで世間に知られるきっかけとなりました。この出来事をきっかけに裁判の数も増えてきています。
■アウティングを防ぐために重要な2つのこと
1つは、兎にも角にも社内教育です。アウティングとはそもそも何か?そして、なぜダメなのか?パワハラ・セクハラ等のハラスメント教育を含めて社内の教育がまず重要になります。そして、2つ目は、社員個人の「受け入れる心」です。現代は、価値観が多様化しており社会正義に反しない限り認められる社会です。自分とは違う価値観の人を受け入れる心、上司、部下という肩書を超えて一人の人間として受け入れる心がとても重要になります。
日本ではアウティングは法律で罰則あるということではありませんが、日本の自治体が独自に禁止条例を制定しています。山陰新聞によると、2023年10月1日時点で12都府県で26自治体が条例で明記し、3年間で5倍に増えています。社会の流れは、人権尊重からアウティング禁止を強化していく流れになっています。
会社は、このLGBTQはじめ立場的に社員個人の様々な情報を取得する立場にあります。その立場がゆえに得られた情報をきちんと管理していくことが、これからさらに重要になります。
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