平野厚雄です。 私は社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(CFP®)として、中小企業の人事労務問題を中心に活動しています。
仕事柄・・・中小企業の経営者のみなさんとお話しする機会があります。
そこで、これから1年掛けて、『経営者を悩ませるよくある人事労務問題』を中心にお伝えしていきます。
平野厚雄⇒プロフィール
経営者にとって常に悩みとなるのは、社内の人間関係です。昨年の厚生労働省のある調査によると、全国の労働局によせられる相談の内容は、いじめや嫌がらせ等の人間関係に関するものが最も多くなっています。このような人間関係の問題には、人がもつ様々な「無意識の偏見」がもたらしていることが多々あります。今回はその代表的な「無意識の偏見」をご紹介いたします。
①確証バイアス
「自分が正しい」という思い込みです。仮説を立てたりするときに自分に都合のよい情報ばかりを集めてしまい、自分の正しさを証明しようとします。自分の考えと違う場合は、勝手に「例外」と決めつけてしまいます。
例えば、採用面接での第一印象を引きずって評価してしまったり、部下の性格について「社交的な人」といった事前情報を得ていると、社交的という自分の予想と一致する相手の言動により着目しやすくなってしまったりします。
②ハロー効果
一部の評価で全体の評価に影響を及ぼしてしまう現象です。例えば、「学歴が高い人はきっと仕事も優秀だ」と思い込んだり、ネガティブな場合は、「朝が弱い人は仕事もできない」と思い込んでしまったりします。
③正常性バイアス
危険な状況が迫っていても「私は大丈夫」と心の安定を保つためにおこる心理的現象のことです(大地震が起きた時に緊急事態に適切な行動をとれない原因にもなるということで有名になった現象です)。職場においては、例えば、社内でハラスメントが発生しているのに「これくらいは普通だ」と放置したり、「これなら失敗するはずはない」という過信をしてしまったりする現象です。
④ステレオタイプ
人の属性に基づく固定観念や先入観です。たとえば、年齢、性別、血液型、出身地、職業などに基づいて、人を一括りにして判断します。「女性は家庭を守るものである」、「総合職は男性がなるものである」「関西人は面白い」等、勝手に判断してしまう現象です。
⑤権威バイアス
権威のある人の言動が常に正しいと信じてしまう現象です。例えば、「社長の言うことは正しい」、「専門家が言っているのだから間違いない」などの思い込みがこれに当たります。これにより、上司の指示が不合理であっても、誰も意見を出さずに従ってしまったり、他部門のリーダーの判断に疑問を持ちながらも、表立って反論できなくなったりしてしまいます。
これら5つの「無意識の偏見」が職場に蔓延すると色々な問題が噴出しますが、大きな問題としては、3つになります。
①公正な人事評価ができなくなる
上司が特定の偏見を持つことで、社員を公平に評価できなくなります。結果として、昇進や評価に不満が生じ、モチベーションが低下し最悪の結果として離職を引き起こします。
②生産性の低下
偏見に基づいて相手を見てしまうことで、自由でオープンな意見交換が難しくなります。多様性を活かした発想や協力が阻害され、組織全体の生産性が低下します。
③ハラスメントの助長
偏見がハラスメント行為に発展することもあります。特にステレオタイプや確証バイアスは、特定の個人やグループを不当な扱いにさらす要因となってしまう可能性があります。
まとめ
以上のように無意識の偏見は、社内にとって大きなリスクとなります。しかし、無意識の偏見は多かれ少なかれ誰もが持っているものです。したがって、大切なことは一人一人が、どのような無意識の偏見を持っているかということを自覚した上で、注意して行動をしていくことになります。そして、もう1点大切なことなことは、社内に「心理的安全性」があるかどうか、つまり忌憚なく話せる社内風土があるかどうかということになります。(「心理的安全性」とはハーバード大学の組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソン氏が1999年に提唱した概念で組織の中で誰に対しても、自分の考えや気持ちを安心して発信出来る“組織”の状態を指します)。
【図1】
最近の組織開発の分野では、心理的安全性の必要性として3つ(図1)があげられるのですが、その1つ目に「情報共有が活発になり、問題の早期発見やイノベーションが生まれやすくなる」ということがあります。つまり、理的安全性があれば、無意識の偏見が実際に起きてしまっても、お互いに注意したり、時には厳しいフィードバックしたりすことができる組織風土ができるということです。これにより、無意識の偏見を予防できたり改善することができるようになり、公正で多様性を尊重する職場文化を築くことができます。
この記事へのコメントはありません。