【2015年 第2回 リスクとリターン(2) -実際の金融商品をあてはめて考えてみよう―】投資の基本
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
前回は株式と債券のリスクとリターンを比較してみました。株式に比べて債券の方がリスクが低くて、リターンも低い、ということでした。
そこでリスクとリターンの関係を考えると、リスクが低ければリターンも低い、ということになります。
株式と債券
株式
日経平均(日経225)を年末に購入し、翌年末に売却した場合の収益率を考えます。
債券
10年物長期国債を年末に購入し、1年間の利息を受け取り翌年末に売却した場合の収益率を考えます。売却価格はその時点の10年物長期国債利回りを割引率とした現在価値を用いています。(正確には残存期間9年の国債利回りを考えるべきでしょうが、データ収集の関係上10年物としています。)
なお、いずれも税金、手数料等は計算に入れていません。
グラフ1は株式と債券の10年間の収益率を比較したものです。右端に10年間のそれぞれのリターンとリスク(10年間を標本とした母集団の推定標準偏差)を表示しています。
これを見ても、債券に比べて株式の方がリターンとリスク共に大きいことがお解りになるかと思います。
10年間という短い期間であれば、適正な数値が得られるかどうかは疑問ですが、今回はリーマン・ショックや東日本大震災の時期を含んでいますので、期間の取りようによっては全く違う結果になったかもしれません。
1学年500人の学校の生徒の学力を計るのに無作為に一部の生徒だけ選んで全体のレベルを知る、という方法が統計調査では用いられます。10人ぐらいでは、たまたま成績の良い生徒を選んでしまい、その学校の学力が過大評価されてしまう、ということが考えられます。さらに生徒数を多く選び、100人ぐらいになると、かなり正確な数字が出ると思います。
次にグラフ1から推測される株式と債券の分布曲線を見てみましょう。
株式と債券の分布曲線
株式と債券のリスクとリターンを正規分布に見立てたグラフがグラフ2です。横軸は収益率、縦軸はそれに応じた発生確率を表しています。
株式と債券の縦軸の目盛は左右両方に分かれていますので、形の違いから単純に比較しないでください。目盛を分けたのは、同じ目盛にすると株式は殆ど平らになり、解りにくくなるので。それでも株式に比べて債券の山の部分は非常に急峻、つまりリスクが相当低い、ということが解ると思います。
次にそれぞれの山の頂上の場所を見てください。債券に比べて株式が右に寄っている、つまり、平均的なリターンの収益率が高い、ということも見ることが出来ます。
このようにグラフ化すると、収益率がマイナスの場合の確率は、0から左側の面積の割合で見ることが出来ます。これは元本割れの確率ということになります。これは明らかに株式の方が高い、と解るかと思います。
金融商品の分布は正確に正規分布に従うわけではありません。しかし、このように正規分布に当てはめてみると、元本割れの確率がおおよそどのくらいか視覚的に見ることも出来ます。
今回はたまたま、株式のリターンが債券よりも高くなりましたが、10年程度では逆の結果が出ることも考えられます。期間をさらに長期に考えれば、株式のリターンが高まる確率が高まる、少なくとも投資家はそのように考えているのでしょう。
(注)
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