【2012年 第3回】 子育て世代の死亡保障はどのぐらい必要?
ライフプラン別コラム – 子育て世代の生命保険入門
平野 雅章(ヒラノ マサアキ)⇒プロフィール
子育て世代の生命保険のご相談では、加入している生命保険の保障額が過剰になっている、あるいは、家族構成の変化により必要な保障額が増えたために過少な保障額になっている、いずれかのケースが多いものです。
適切な死亡保障額を決めるには「必要保障額」という考え方があるのですが、残念なことにそれほど普及しているとは思えません。必要保障額の計算には、これからかかる教育費と遺族が受け取る遺族年金額を把握することが必須となり、自分で計算するには少しハードルが高いのは事実です。そこで、第1回の記事では教育費、第2回の記事では遺族年金について解説しました。それらをもとに、今回は必要保障額の計算方法と具体的な事例をご紹介します。
子育て世代の必要保障額を計算するには
必要保障額とは、家計を支えている人が亡くなったと想定して、遺族の今後の支出(生活費や教育費など)と遺族の収入(給与や遺族年金など)を見積もり、その支出額から収入額を差し引いた金額です。多くの家庭では支出額より収入額が少なくなるので、足りない金額を保険で補うことになります。
■ステップ1:遺族の生活費の計算
現在の基本生活費(食費・光熱費・通信費・被服費など)をもとに、遺族の生活費を年間で見積もります。末子が独立するまでの期間は現在の基本生活費の70%、末子の独立後、配偶者が一人で生活する期間は50%を目安とします。
a.現在の年間基本生活費 × 70% × (末子の独立時年齢 - 末子の現在年齢)
b.現在の年間基本生活費 × 50% × 末子独立時の配偶者の平均余命
c.子供の教育資金や住居費用、葬儀費用など基本生活費以外でまとまって必要な資金を別途見積もり
遺族の生活費=a(末子独立前の生活費)+ b(末子独立後の生活費)+ c(教育・住宅・葬儀費用など)
平均余命とは、各年齢であと何年生きられるかの平均値です。たとえば、30歳では男性はあと50.37年、女性は57.00年生きるというのが平均です。35歳では男性45.55年・女性52.11年、40歳では40.78年・47.25年となっています。(厚生労働省「平成21年簡易生命表」より)
cで挙げた教育費は、第1回の記事で紹介した統計金額を進路に応じて加えます。
住宅費についてですが、住宅を所有している家庭は、マンションであれば管理費・修繕積立金と固定資産税・都市計画税に平均余命の年数をかけて、加算します。一戸建ての住宅であれば、屋根・壁の補修や水回りのリフォーム分として15年間に1度200~300万円程度が必要になると考えて、固定資産税・都市計画税と併せ加算しておきたいです。なお、家計を支えている人が住宅ローンを借りている期間に亡くなると、団体信用生命保険により住宅ローンが精算され、それ以降の支払いはなくなります。住宅を所有していない家庭は、現在の賃貸住宅に引き続き住むか、引っ越すかを考えた上で必要な家賃を平均余命の年数分加えます。
葬儀については選択肢が多様化し費用のバラつきも大きいようですが、全国平均では199.9万円となっていますので、200~250万円を加算するのが一般的でしょう。(財団法人日本消費者協会「第9回葬儀についてのアンケート調査」報告書より)
■ステップ2:収入見込み
遺族年金、死亡退職金や預貯金などの収入を見積もり、合計します。
・社会保障(遺族年金など)
・企業保障(会社員の場合、死亡退職金・弔慰金など)
・自己資産(預貯金、株式・国債・投資信託などの金融商品、その他の売却可能な資産)
・その他の収入見込(配偶者の給与など)
遺族年金は第2回の記事で金額の水準はつかめますが、正確な金額は保険会社やファイナンシャルプランナーに試算してもらうとよいでしょう。
配偶者の給与は、年収でいくらの金額を何歳まで受け取れるか想定しますが、何らかの理由で年収額がダウンすることも考えられます。金額は少し厳しく想定するほうが安心です。
■ステップ3:必要保障額の算出
ステップ1とステップ2の各金額から必要保障額を算出します。
必要保障額(死亡保障の必要金額)= 遺族の生活費 - 収入見込み
こうして必要保障額を計算するのですが、かなり大変ですよね。
それでは、実際に計算するといくらぐらいになるのか、例を挙げたいと思います。
子育て世代の必要保障額はどのぐらい?
次のプロフィールの家族について、夫の必要保障額を計算します。
・夫 32歳の会社員。平成15年4月入社で平均標準報酬額が35万円。
・妻 30歳の専業主婦。以前はパートで厚生年金加入期間はない。
・子 1歳の長女。
現在の基本生活費は20万円、家賃は9万円。妻は夫の死亡後、パートを始め65歳まで年収100万円と想定します。子の教育に関しては大学が私立文系で他は全て公立とします。なお、平均標準報酬額とは、平成15年4月以降の厚生年金加入期間中の給与とボーナスを所定のルールで合計し、加入月数で割った金額です。
このケースでの必要保障額は、3,789万円となりました。世帯主が30代会社員の子育て世代では3,000万円から4,000万円になることが多く、1つの目安になりますが、家族構成や基本生活費の金額によりかなり異なることもありますので、一度計算してみることをお勧めします。
今回の記事では必要保障額を解説しましたが、ここで算出した金額は”現時点で”必要な保障額であることに注意が必要です。必要保障額は年齢を重ねるにつれ減っていくことが多いため、生命保険の保障額もずっと同じ金額では適切と言えません。それでは、どのような生命保険に加入するのがよいのかを次回の記事では考えます。
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