【2015年 第3回 イラン】
「海賊とよばれた男」がもっと楽しめる!原油の話
三次 理加 ⇒プロフィール
石油を武器に世界と戦った日本人を描いた歴史経済小説「海賊とよばれた男」百田尚樹/著(講談社)第三章には、「イラン」が登場します。私は、この章を読んだ時、最高にドキドキしました。皆さんは如何でしたか?
1)イラン
世界最大の原油生産国と聞いて、真っ先に思い浮かべる国はどこですか?
サウジアラビア?
いいえ、違います。
英石油大手のBP統計(BP Statistical Review of World Energy June 2015)によれば、2014年末における世界最大の原油生産国は、アメリカ。次いで、サウジアラビア、ロシア、カナダ、中国、アラブ首長国連邦。イランは第7位です。
一方、同誌によれば、確認可採埋蔵量世界1位は、ベネズエラ。次いでサウジアラビア、カナダ。イランは第4位です。また、同統計から計算すると、2014年末におけるイランの原油可採年数は、なんと119.6年分!
つまり、イランは、世界でも有数の原油埋蔵量を誇る、原油生産国といえます。
ちなみに、「確認可採埋蔵量」とは、試掘井などにより存在が確認された原油量のことを意味します。
実は、2000年頃まで、日本の原油輸入国トップはサウジアラビア、次いでアラブ首長国連邦、第3位がイランでした。また、1970年代初頭は、イランがトップで、日本の原油輸入のおよそ3割を占めていました。(図表1)
その背景には「海賊とよばれた男」にあるようなエピソードが影響しているのかもしれませんね!?
2)オイルロード
第2回でご説明したように、我が国は、輸入の8割強を中東諸国に依存しています。
原油は、中東諸国からどのように運ばれてくるのかご存知でしょうか?
中東諸国からイランとサウジアラビア間にあるホルムズ海峡を抜けてインド洋に出た後、マラッカ海峡を抜けて日本に到着するまでおよそ12,000キロメートル。必要とされる日数は、大型タンカーで片道およそ20日。積み下ろしを加えると往復45~50日かかります。(図表2)ちなみに、この大型タンカー一隻で運べる原油は、日本の原油輸入量のおよそ半日分です。
サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、イラン等、日本にとって主要輸入国からの原油は、このホルムズ海峡を通過します。この海峡を通過する日本向け原油は、日本の輸入量のおよそ83%に相当します。しかし、このホルムズ海峡に通行障害が発生した場合に、代替ルートはありません。
また、マラッカ海峡は水深が浅いことに加え、海賊が出没する危険度の高い地域です。この海峡を迂回する場合、さらに南下することになりますが、航路によって日数は1.5日から3日余分にかかり、燃料も余分に必要となります。
さらに、近年、中国が南シナ海で埋め立てを進めている西沙(パラセル)諸島(図表2の①)、南沙(スプラトリー)諸島(図表2の②)、ルコニア礁(図表2の③)は、このオイルロード上にあります。
もし仮に、中国が南シナ海における制空権、制海権を握った場合、中国は、先の大戦時における米国と同じく、いつでも、経済的にも軍事的にも日本の息の根を止めることができる、日本の生殺与奪権を握る恐れがあるといえるでしょう。
我が国の経済にとってなくてはならない原油は、現代においても、非常に不安定な環境にあるといえます。
次回は「七人の魔女(セブン・シスターズ)について。お楽しみに♪
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