七人の魔女(セブン・シスターズ)【2015年 第4回】

【2015年 第4回 七人の魔女(セブン・シスターズ)】
「海賊とよばれた男」がもっと楽しめる!原油の話

三次 理加 ⇒プロフィール

 

石油を武器に世界と戦った日本人を描いた歴史経済小説「海賊とよばれた男」百田尚樹/著(講談社)で、主人公の前に立ちはだかる巨大な敵「七人の魔女(セブン・シスターズ)」。「七人の魔女(セブン・シスターズ)」とは一体?

 

 

1)セブン・シスターズ

「セブン・シスターズ」と聞いて、何を想像しますか?

 

ゴルフがお好きな方であれば、セントアンドリュース・オールドコースの「セブン・シスターズ・バンカー」、サッカーがお好きな方であれば、セリエAの「セッテ・ソレッレ(=セブン・シスターズ)」のユヴェントス、ミラン、インテル、ローマ、ラツィオ、フィオレンティーナ、パルマを思い浮かべることでしょう。

 

その由来は、ギリシア神話にあるようです。ティターン族のアトラスと精霊プレイオネとの間に生まれたプレイアデスの7姉妹。女神アルテミスに仕えた、マイア、エーレクトラー、ターユゲテー、アルキュオネー、ケライノー、ステロペー、メロペーです。

 

プレイアデス姉妹は、冬の夜空を飾るおうし座の散開星団「プレアデス星団」の語源にもなっています。雄牛の背中部分にあたるところに位置する星団です。通常、肉眼では6個しか見えず、視力の良い人は7個見えるそうです。日本では、清少納言「枕草子」において、「星は すばる」と謳われたことでも有名です。

2)石油の支配者

 

それでは、「海賊とよばれた男」百田尚樹/著(講談社)における「七人の魔女(セブン・シスターズ)」とは、一体、何を意味するのでしょうか?

それを推測するために、本稿では、石油の価格決定における主導権を持つ者=「石油の支配者」の変遷についてご紹介しましょう。

 

世界で最初の石油会社は、ニューヨークの弁護士ビッセルが設立したペンシルバニア・ロックオイル社(1854年設立)です。その後、19世紀末の米国において、石油産業は巨大産業化。米国のジョン・D・ロックフェラーが設立したオハイオ・スタンダード石油(1870年設立、1882年スタンダード・オイル・トラスト)は、米国内の原油の生産、輸送、精製、販売の全部門の90%を支配するようになりました。同社は、1911年、独禁法(シャーマン・反トラスト法違反)による解体命令により、スタンダードオイル・ニュージャージー、スタンダードオイル・ニューヨーク、スタンダードオイル・カリフォルニア、インディアナ(後にアモコ)など33社に分割されます。

 

これらスタンダードの名を冠した分割後の会社と、米国系の「ガルフ・オイル」「テキサコ」、欧州系の「ロイヤル・ダッチ・シェル」、「ブリティッシュ・ペトロリアム」は、カルテル協定を結び、世界各地の石油資源を共同で支配するなど、強大な力を振るいました。これらの会社は「石油メジャーズ」といわれます。その後、石油メジャーズは、吸収・合併を繰り返し、現在は、5大スーパーメジャーズ体制になっています(注1)。

(図表1)

注1:「コノコ・フィリップス」を加えると、6大スーパーメジャーズ体制となる。

 

1950年代、油田開発が進んだ結果、原油は供給過剰となり、1959年から60年にかけて、石油メジャーズは数回にわたり原油公示価格(注2)を引き下げます。これに反発した中東諸国を中心とする産油国は、1960年、「OPEC=Organization of Petroleum Exporting Countries: 石油輸出国機構」を結成。設立当初、加盟国はサウジアラビア、ベネズエラ、イラン、イラク、クェートの5カ国でした。OPECがカルテルにより価格を引き上げたことから、1973年、第1次石油ショックが発生。以降、価格決定権は石油メジャーズからOPECに移り、OPECが石油の支配者となる時代に突入します。

 

注2:当時は、買い手が一方的に価格を決めるシステムだった。石油業界誌「プラッツ・オイルグラム」に公示(ポスト)されたことから、「公示価格(ポステッド・プライス)と呼ばれる。

 

1979年に第2次石油ショックが発生。原油価格が高騰したことにより、非OPEC諸国における原油増産と新規油田の開発が積極的に行われた結果、一転、原油価格は反落。また、OPECの生産シェアが50%を割り込むことにより、その支配力は低下傾向となっていきます。

 

原油価格の高騰、下落を経験した石油メジャーズ等石油関連企業の間では、原油の価格変動リスクを回避するために、先物市場の開設ニーズが高まり、1983年、米国NYMEX(=NY商業取引所)において、原油の先物取引が上場されます。通称WTI(West Texas Intermediate)、正式名称Light Sweet Crude Oil(軽質低硫黄原油)です。

 

続いて1988年には、英国ICE Futures Europe(旧:IPE)に北海ブレント原油、2001年には東京商品取引所(旧:東京工業品取引所)に中東産原油が上場されました。

これらは、世界の3大石油市場といわれます。

 

以上のような原油の先物市場の開設により、現在における原油の価格決定権は、OPECから先物市場へと移っています。

ところで、「七人の魔女(セブン・シスターズ)」が何を意味するのか、お分かりになりましたか?「わからないよ~!」という方は「海賊とよばれた男」百田尚樹/著(講談社)でご確認くださいね♪

次回をお楽しみに♪

  • コメント: 0

関連記事

  1. 感想 問題28 つみたてNISA【2018年 問題28】

  2. ちょっと工夫しておトクしましょう【2006年 第1回】

  3. 平野厚雄 の 実務家FPとして知っておきたい 中小企業の経営者を悩ませるよくある人事労務問題 第2回 社員が茶髪&ピアスで出社してきた!

  4. “投資信託” の落とし穴【2010年 第3回】

  5. 資産運用のポイント(4) 【2010年 第7回】

  6. 〔新社会人〕いつかは判らないが、確率は99% 【2006年 第3回】

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。