鈴木商店【2015年 第5回】

【2015年 第5回 鈴木商店】
「海賊とよばれた男」がもっと楽しめる!原油の話

三次 理加 ⇒プロフィール

 

 

石油を武器に世界と戦った日本人を描いた歴史経済小説「海賊とよばれた男」百田尚樹/著(講談社)に登場する「鈴木商店」、皆さんはご存知ですか?今回は、ビジネスマン必見!幻の総合商社「鈴木商店」についてご紹介します。

 

 

1)幻の総合商社

皆さんは、幻の総合商社と呼ばれる「鈴木商店」をご存知でしょうか?

 

鈴木商店は、「鼠―鈴木商店焼打ち事件―」城山三郎/著 文春文庫、「お家さん<上><下>」玉岡かおる/著 新潮文庫 等の小説で題材として取り上げられています。

後者については、2014年に読売テレビ開局55年ドラマとなり、鈴木商店の女主人 鈴木よね役を天海祐希氏が主演、大番頭 金子直吉役を小栗旬氏が演じていますのでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

 

鈴木商店は、大正時代、日本一の年商を誇った総合商社ですが、昭和2(1927)年に破たんします。しかし、鈴木商店の系列会社には、日本を代表する企業に発展したものが多数あります。たとえば神戸製鋼所、昭和シェル石油、日本製粉、J-オイルミルズ、サッポロビール、帝人、双日、IHI等の上場企業30社程度、非上場で有名な企業としてはニッカウヰスキー等が挙げられます。

(図表1)

図表1をご覧いただければおわかりのように、系列会社の業種は、食料品、卸売業から海運業まで多岐にわたっています。

 

2)鈴木商店とは?

現代まで続くこれらの大企業をこれほどの数、輩出した鈴木商店とは、果たしてどのような会社だったのでしょうか?

鈴木商店は、創業明治7(1874)年頃、店主 鈴木岩治郎氏が洋糖取引商として始めた個人商店でした。その後、樟脳、薄荷、肥料等を扱い、海外にも進出するようになり、神戸八大貿易商のひとつに数えられるようになっていきます。

明治27(1894)年、店主 岩治郎氏が急逝。妻よね氏は女主人となり、店を番頭の柳田富士松氏、金子直吉氏に全面的に任せることにします。

日清戦争後、台湾が日本領となったことをきっかけに樟脳油で成功した直吉氏は、その後、手がけた砂糖事業を大日本製糖に売却し巨額の利益をあげると、製鉄業にも進出。またその頃より、鈴木商店は、丁稚奉公が一般的だった当時に、大学卒業者を積極的に採用するようになります。大学を卒業したての新人であっても、現在の価値で1日30億円もの取引を任されるなど、若い時から大きな活躍の場を与えられる、自由で積極的な社風があったようです。

 

このように採用された大学卒業者の中には、神戸高商(現在の神戸大学)卒の高畑誠一氏もいます。高畑氏は、「海賊とよばれた男」にも、主人公の神戸高商における同級生として実名で登場しています。実は、高畑氏は、日本で最初となるゴルフのルールブックを出版したことでも有名です。

 

ちなみに、高畑氏同様、主人公の同級生として実名で登場する永井幸太郎氏は、大学卒業後はスタンダード石油(第4回コラム参照のこと)に入社したものの、高畑氏の誘いで鈴木商店に入社。後述する「鈴木商店焼き打ち事件」の際には、世間の誤解を解くために「米価問題と鈴木商店」という論文を発表しています。

ロンドン支店に赴任した高畑氏は、第一次世界大戦において、連合国相手に大商いを演じます。その強気のビジネス姿勢は、イギリスの海軍大臣のチャーチル(後の首相)をして「カイゼル(ドイツ皇帝)を商人にしたような男」と評されたほどです。高畑氏の働きにより、鈴木商店は、大正6(1917)年の貿易年商で三井物産を超えます。

これらの利益で鈴木商店は、次々に事業を立ち上げていきます。業種は多岐にわたり、食品10社、化学24社、繊維製紙4社、煙草2社、鉱業2社、鉄鋼冶金5社、電気機械3社、電力3社、鉄道3社、海運2社、水産2社、不動産倉庫2社、殖産開発2社、保険4社、銀行・信託2社、商業4社、その他、およそ80社に及ぶ関連会社を持つことになります。

ここから大番頭 金子直吉氏は、「煙突男」という異名を取るようになります。

大正7(1918)年、大戦景気によるインフレに加え、凶作による米不足により富山から米騒動が勃発。「米を買い占めている悪徳商店=鈴木商店」と思わせるような新聞社の報道の影響もあり鈴木商店は民衆による焼き打ちにあいます。

しかし、第一次世界大戦の休戦による欧州各国の復興需要により、鈴木商店は再び大商いを記録。大正8(1919)年の売上は、日本のGNPの1割を占める16億円(現在価値でおよそ4兆5千億円)だったそうです。

ところが大正12(1923)年、大戦の反動による金融恐慌がおき、巨額の融資を受けていた台湾銀行から新規融資を打ち切られた鈴木商店は倒産。創業から50年の歴史に幕を下ろしたのでした。ちなみに、高畑誠一氏は、鈴木商店の整理会社を再興させ、それが現在の上場会社 双日に続いています。

なお、第1回コラムで出光と昭和シェル石油の経営統合に触れました。鈴木商店を源流とする昭和シェル石油と出光の経営統合というように視点を変えてニュースを見てみるのも面白いですね。

「海賊とよばれた男」の主人公や、鈴木商店のような会社を支えた方々の活躍が、現在の日本経済の礎になっている。。。このように思うと、「海賊とよばれた男」をまた少し違う視点から楽しむことができそうです。

次回は最終回。お楽しみに♪

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