【2014年 第1回】終活を考える- それぞれの終活をプランすること
山根 裕子(ヤマネ ユウコ)⇒プロフィール
「終活」最近とてもよく目にします。2011年3月11日の東日本大震災以来、今までは目をそむけて密やかにされていた「人生の終焉」にまつわる様々なことと向き合ってみようという行動が増えてきました。「終活」はお葬式だけの話ではないのです。
医療、介護、遺言、相続、葬儀、お墓など、人生の終焉の場面で登場する多くの問題を先延ばしにして漠然とした不安を持っているよりは、元気なうちにそういった問題と取り組んで、必ず終わりの来る人生を安心して過ごしていこうというのが「終活」です。6回に分けて、お話していこうと思います。
いつか必ずこの世とはおさらば
以前に観たお芝居に出てきた占い師のセリフにこんなのがありました。
「ワタシの占いは絶対に当たります。あなたは死にます。いつか」そうなのです。いつか必ずこの世とはおさらばしなければなりません。
そういう話をすると「縁起でもない」と怒る方もおられますが、縁起でもないからと生命保険に入らない方はいません。生命保険の一番の目的は「死亡保険金」です。みんな実はわかっています。
この世とお別れするその瞬間までご自身もご家族も幸せに楽しく過ごしていくために、この世とお別れしたことでご家族がご苦労のないような準備ができたら素敵なことです。
決してこの世とお別れするために今を過ごしている訳ではありませんが、避けて通ることができないのも確かです。終わりを考えることで今を充実させることもできるのではないでしょうか。
お仕事もご家庭もほぼ完璧に仕切ってきたある方のご葬儀に伺った時にそこで感じたのは、あらゆるイベントの中心になっておられたその方が不在なご葬儀が今ひとつ物足りない「らしくない」葬儀だったことです。
いろいろなことをプロデュースされたその方ですが、1年ほどの闘病で亡くなられました。この世の方とのお別れのその行事についてご準備はなかったと聞きました。
「らしいお葬式」をなどというのは叱られそうですが、「僕の死に方~エンディングダイアリー500日」という本まで遺して2012年に逝った金子哲雄さんの終活はあまりにも見事としか言いようがなかったことはみなさんのご記憶にもあると思います。
生前金子さんにお会いした時に頂いた名刺は二つ折りのもので、月替りで近々のテレビ出演などについて記された印象に残るものでしたが、ご自身の終わりを告知された後のプロデュースの内容も「金子さんらしい」ものでした。
元気なうちでないとなかなかできないこと
人によって終活の中の重要項目は異なります。
朝日新聞が2010年に行った「死生観」に関する世論調査での「死に備えて準備しておきたいことは何ですか」という質問の答えは以下のようでした。(2010年11月4日版より)
身の回り品の整理・処分 61%
延命治療の意思表示 52%
脳死での臓器提供の意思表示 35%
葬式や墓の形式の意思表示 31%
遺言状の作成 19%
死を知らせたい人のリスト作り 12%
自分史などの作成 3%
これらのことは元気なうちでないとなかなかできないことです。
また、「余命を知って、心の準備をしてから死ぬ」のと、「ある日突然に、何の準備もなく死ぬ」のはどちらが望ましいかという質問の回答はほぼ同数でした。
自分の死に関する出来事がいつ起きていくのかを想定しながら終活をするのは時にはつらいことでもあり、なかなかできないことだと思いますが、上記の項目などについて意思表示や指示があれば、ご家族は悩んだり悲しんだりしなくていいこともたくさんあると思います。
先日「グリーフケア」ということについての話を聞きました。
グリーフケアというのは家族など、大切な人を亡くし、大きな悲嘆(グリーフ)にくれている人に対するサポートのことを言います。
大切な人との死別で起きる反応は、怒りなどの感情が激しく起伏したり、事実の否認をするとか、強い後悔や自責の念にみまわれ、不眠や食欲不振などの身体の不調も出ます。
死別という事実を受け入れて環境の変化に適応していくプロセスを支援することをグリーフケアと言いますが、悲しみのまっただ中にいる人達が様々な選択や判断をすることを少なくしてあげることも優しさの一つです。
2011年に亡くなったスティーブ・ジョブスが2005年にスタンフォード大学の卒業式で卒業生に送った有名なスピーチがあります。彼は3つの話をしましたが、最後のテーマが以下でした。
誰も死にたくない。
天国に行きたいと思っている人ですら死んでそこにたどり着きたいとは思っていない。
死は我々全員の行き先です。死から逃れた人間は1人もいない。
それはあるべき姿なのです。死はたぶん、生命の最高の発明です。
それは生物を進化させる担い手。古いものを取り去り、新しいものを生み出す。
今、あなた方は新しい存在ですが、いずれは年老いて、消えゆくのです。
深刻な話で申し訳ないですが、真実です。
この時ジョブスは既にすい臓がんを宣告された後でした。優秀な大学の卒業にあたって前途洋々たる若者たちに送られたこのスピーチはどのように響いたのでしょうか。
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