【2015年 第3回 シンガポールからの報告「『ダイバーシティ』を肌で感じる】
「いまシンガポールで起きていること」-シンガポール在住ファイナンシャルプランナーからの報告-
永柄 正智
「ダイバーシティ」とは、「多様性」や「相違点」と訳されます。
その概念は、個々の違いを尊重して受け入れ、「違い」に価値を見つけることだそうです。様々な民族や人種の人々が共存するシンガポールでは、「ダイバーシティ」という言葉を感じる機会が多くあります。実際に海外で生活をしてみると戸惑うことも多く、そのたびに日本と海外の文化や習慣の違いを実感します。今回は、シンガポールで感じる「ダイバーシティ」についてご紹介します。
皆様、こんにちは。シンガポール在住のファイナンシャルプランナー 永柄正智です。
皆さんは、電車やバスなどの公共交通機関の中で携帯電話を使って会話をしている人がいたらどのように感じるでしょうか。日本であれば「常識が無い」と感じることでしょう。
しかし、シンガポールや他の多くの国では、バスや電車の中で携帯電話を使うことは、ごく普通なこととして受け入れられています。日本の常識が世界では通用しないのです。そのかわりにシンガポールでは、公共交通機関の中での飲食は禁止されています。これは一つの例ですが、シンガポールのような多民族国家では、これまでに育ってきた場所や環境が全く違う人たちが集まって生活をしているため、それぞれの人種や民族の文化や習慣を理解しつつ、上手に接していくことが求められます。
■社会全体で多様性を受け入れる
シンガポールの祝日には宗教に関係するものが多く、イスラム教やヒンズー教、キリスト教などの行事を国全体でお祝いしています。個々に信仰の対象に違いはあっても、それぞれの宗教の重要なイベントを祝日と定めることで、国民が他の宗教について理解する良い機会にもなっているようです。
またイスラム教徒の方々は、一般的に「ハラル認証」(※注1)がされていない食材を食べることが禁じられています。したがって、多くのスーパーには「ハラル認証」専門のコーナーが設けられており、安心して食材を購入することができます。
シンガポールに住んでいて感じることは、信仰する宗教と実際の生活とが密接に関わっていることです。日本ではあまり意識したことはありませんでしたが、海外では宗教に関する最低限の知識を持つことが、相互理解を進めるためには大切です。
■「ダイバーシティ」の効果
異なる文化や習慣を受け入れることは簡単なことではありません。特に日本人の場合には周りに外国人がいることの方が珍しく、他の国の習慣や文化に対して違和感を持つ人も多いでしょう。しかしそれを拒絶し、否定したところで、その先には何も生まれません。
シンガポールのようなダイバーシティが許容される社会には、世界中からたくさんの人たちが集まってきます。この国の成り立ちや歴史的な背景があるにしても、異なる価値観や文化を認める「開かれた社会」であることが、世界中から有能な人材や企業が集まってくる大きな要因になっているように思います。
■いまの日本に必要なもの
日本に暮らしていれば「ダイバーシティ」についてそれほど考えることは無いかもしれません。日本人どうしであれば、直接言葉では伝えなくても、ある程度のことがわかり合える安心感もあります。日本人にとって日本という国は実に居心地のいい場所です。
しかし、人口がこれから減少していく中で、日本経済が持続的に成長していくためには、海外の成長を取り込んでいくことが欠かせません。多くの外国人に日本を訪れてもらい、積極的に交流していく必要があります。今後、日本の就労人口が減っていく中で、外国人労働者や外国人居住者の受け入れに関する議論は避けては通れない問題です。
日本の素晴らしいホスピタリティー精神や文化を守り、大切にした上で、外国人が心地よいと感じてもらえる社会になっていけば、日本の未来はさらに開けていくのではないかと思います。
注1)ハラル(HALAL)とは、イスラム教で「合法的なもの」「許されたもの」という意味のアラビア語です。イスラム法の下では豚肉や飲酒が禁じられていますが、その他の食品でも加工や調理に関して一定の作法が要求されており、この作法が遵守された食品を「ハラル認証」食品と言います。ハラル認証は、世界各国の認証機関により付与されます。
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