【2015年 第4回 シンガポールからの報告「シンガポールの『年金制度』」】
「いまシンガポールで起きていること」-シンガポール在住ファイナンシャルプランナーからの報告-
永柄 正智
日本では少子高齢化の進展で、年金制度を支える側の人口が減少し、将来的には年金給付額の削減が避けられない状況になっています。昨年発表された年金財政検証では、所得代替率(※注1)が50%を維持できるかどうかに世間の大きな関心が集まりました。 現役世代の方々にとっては、将来どれぐらいの年金額を受け取ることが出来るのかは大きな関心事のひとつだと思います。さて、海外の年金制度はどのような仕組になっているのでしょうか。今回はシンガポールの年金制度についてお話します。
皆様、こんにちは。シンガポール在住のファイナンシャルプランナー 永柄正智です。
シンガポールの年金制度は、CPF(Central Provident Fund:中央積立基金)と呼ばれ、国民と永住権保持者は個人個人が年金口座を持ち、退職後の生活などに備えて強制的に貯蓄を行っていく制度となっています。その大まかな仕組みは、就業者と雇用主が一定の割合(概ね就業者が給与額の20%、雇用主が13%)を口座に積み立てていき、定年退職時になると年金などとして引き出すことが可能となるかたちをとっています。
この制度の特徴は、勤労者全体で年金制度を支える、いわゆる「賦課方式」を採用している日本の制度とは異なり、「積立方式」を採用していることです。そのメリットは、各個人が口座に積み立てを行っていくため、積立残高を容易に把握することができ、拠出した金額よりも受給額が少なくなるというような事態は避けられる点にあります。
■保証される積立金に対する利息
さらに詳しくご説明しましょう。シンガポールの年金口座には3種類の口座が用意されています。まず①退職後の生活費を確保するための口座(特別口座)、次に②住宅の購入や教育費のために使用できる口座(通常口座)、最後に③入院費用や医療保険の支払いに充てることが出来る口座(医療口座)があります。
それぞれの口座の積立金には、シンガポール政府が保証する利息が付される仕組みになっています。特別口座と医療口座の積立金には年間4%の利息が付き、通常口座の積立金には年間2.5%の利息が保証されています。その上、通常口座の残高のうち2万ドル(約180万円)と全ての口座の合計残高のうちの6万ドル(約540万円)までには、さらに1%の利息が加算されます。このように、政府が年金積立金に対する利息を保証することで、加入者は安心して年金の積み立てを行うことができ、将来に備える資産を増やすことが出来る仕組みになっているのです。
日本でも昨今、GPIF(※注2)が年金積立金の積極的な運用を行っていく方向に舵を切っています。しかし、シンガポールの年金制度との大きな違いは、積立金の運用に対する利息が保証されていない点でしょう。
■根底にある「自助努力の精神」
このように、シンガポールの年金制度の根本的な考え方は、政府が自国民に対して強制的に年金の積み立てを行うことを義務づけることで、「自らの老後は自らの資金で守る」ことを促していることです。その代りに、政府は積立金に対して一定の利息を保証することでこれをバックアップしているのです。
おそらく今後の日本においても公的年金のみで老後の生活費をまかなうことは難しい時代になっていくでしょう。したがって、公的年金だけには頼らない「自助努力によるライフプラン」を実行していくことが、老後の安定した生活につながっていくのではないかと思います。
■これからは「公的年金+α」の備えが必須
ここ数年の大幅な円安の進行と消費税増税に伴う物価上昇の局面においては、預貯金のみによる資産の保有が実質的な資産価値の減少に繋がっていきます。したがって、保有資産の減少を防ぐ意味においても、「貯蓄から投資へ」の流れはいっそう加速していくでしょう。
これからは、確定拠出年金やNISA(少額投資非課税制度)などの制度を積極的に活用して、公的年金+αの備えをしていく事がますます大切になっていくでしょう。
注1)現役世代の平均手取り収入に対する年金受取額の比率
注2)Government Pension Investment Fund:年金積立金管理運用独立行政法人
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