【2012年 第2回】 “1ドル80円は円高?” ケース別コラム – 経済統計から考える資産運用
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
日々変動する為替レート。それも長期的には経済のファンダメンタルの反映です。特に物価上昇率は大きな要素です。物価上昇率を通して為替レートを見ると、違う姿が見えてきます。
表面上の数字のみにとらわれない。
日本ではハンバーガーが1個100円、アメリカでは1個1ドルであったとします。このときの為替相場が1ドル=100円とすれば日本とアメリカではハンバーガーの価格が同じになります。
それから日本の物価が下がりハンバーガーの価格が50円に下がったらどうなるでしょうか?1ドル100円のままでは、もしアメリカ人が1ドルでハンバーガーを食べようとしたらアメリカでは1個しか買えません。ところが日本まで来て1ドルを100円に両替すれば、100円で2個のハンバーガーを買うことが出来ます。(現実にハンバーガーだけのために日本まで来る人はいませんが、旅費とか時間を無視した“例え”として考えてください。)
そうなるとアメリカではハンバーガーが全く売れなくなります。このような不均衡が生じるのは為替レートが1ドル=100円で固定されているからです。この過程でハンバーガーを買うために多くのアメリカ人がドルを売って円を買い求めます。
変動為替レートであれば円の需要が高まることにより円相場は上がり続けます。そして1ドル=50円に円高になれば日米のハンバーガーの需要と円とドルの交換比率が均衡することになります。このように変動相場制は各国の物価上昇率を調整することにより国際経済を均衡させるこうかがあります。そして各国の物価上昇率の違いにより為替レートが変動する仕組みを購買力平価説と言います。購買力とは一定の単位の通貨でどのくらいの財が購入できるかの指標です。
現実の為替レートは物価上昇率ばかりではなく、各国の金利、経済成長率、あるいは投機的な思惑により動き、必ずしも物価上昇率の差をそのまま反映した動きにはなりません。しかし為替レートが購買力から著しくかけ離れた場合は、大きな経済的不均衡が生じそれを解消しようとする力が市場に生じることが考えられます。そして長期的には為替レートは購買力に沿った動きに収まるという考え方があります。
そうであれば、過去からの名目の為替レートの変動のみで円高とか円安といった判断は片手落ちになります。その間のそれぞれの通貨の購買力の変動すなわち物価の変動を見る必要があります。その物価の変動を勘案した数値を実質為替レートと言います。計算式は以下のとおりです。
グラフ1は1990年から2011年までの年末のドルのレート、名目為替レートと1990年を基準とした日米の物価上昇率を反映した実質為替レートを示したものです。名目値では136円から78円と円高(ドル安)となっていますが、実質値は136円から126円、円高には違いありませんが名目値ほどの大幅な円高にはなっていません。
この理由は日米の物価上昇率の差です。特に日本はデフレからなかなか脱却できません。
グラフ2は1990年からの日米の物価上昇率を表したものです。インフレとは購買力の減少、通貨価値の下落です。反対にデフレは通貨価値の増大を意味します。ドルに比べて円は日本のデフレの為、実力が高くなっている、過去に比べて同じ金額でより多くの物を購入できるようになっています。であれば名目値で円高になるのも当然の帰結です。
という事は、物価上昇率に大きな変化が無ければ、円安に振れたとしてもそれは一時的な減少にとどまり、そして財政危機が表面化するようなことが無ければ、趨勢的には円高の方向性は変わることはない、という見方も出来ます。
このように経済指標をみる場合は表面上の数字ばかりではなく、各種のフィルターを通してみることは必要なことです。表面上の数字のみにとらわれていこと、重大な要因を見落とすことにもなります。
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