【2012年 第6回】 TPPという大きな決断 ケース別コラム – 経済統計から考える資産運用
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
TPP(Trans Pacific Partnership:環太平洋経済連携協定)。賛成・反対それぞれの立場もあります。どちらにしても日本経済への多大な影響が及ぶことが考えられます。それぞれの主張を検討しながらその是非について考えた見ることが必要です。
消費税の次にやってくる政治的課題、TPPの是非。どちらかというと経済界はTPP参加へ賛成、農業界は反対という図式です。ただどちらの発言もそれぞれの立場からの一歩的な主張に偏りがちにも思えますので主要な論点を整理してみたいと思います。
その前に、皆さんに誤解を与えないためにも、完全な中立という事は有り得ませんので, 私のスタンスも少し偏っているかもしれません。私のスタンスはTPP賛成です。そこを前提にお読みください。
以下に反対派と賛成派の主張を列記します。
1.反対派の主張
(1)農業に甚大な影響が及び、日本農業は壊滅する。
(2)食の安全が脅かされる。
(3)日本の国民皆保険制度が崩壊する。
2.賛成派の主張
(1)TPPに参加しないと工場の海外移転等、空洞化が加速される。
(2)農業について、締結から完全施行まで10年の充分な猶予がある。
(3)むしろ、農産物の輸出のチャンスがある。
それぞれの主張の検証
(1.1)農業への影響はかなり大きいでしょう。しかし農業の衰退は今に始まったことではありません。農業の衰退の原因は自由化の進展もさることながら、大規模農家から零細な兼業農家まで保護する護送船団方式の農政の影響もあると思います。これが新規参入への高いハードルとなり、耕作放棄地の増加となっているのではないでしょうか。
TPP参加に伴い、農業に対する補助金も考えられますが、残念ながら危機的な財政という制約も有り、充分な補助金は難しいでしょう。
(1.2)食の安全基準、それが国内農家保護のためではなく、充分な科学的根拠を持っていれば交渉の過程でも十分通用すると思います。むしろTPPを契機としてより優れた日本基準を普及させる機会にもなります。
(1.3)保険制度については、現状ではTPP交渉での議論にはなっていないようです。むしろ日本の保険制度にとっての最大の脅威はTPPより日本の財政問題だと思います。
(2.1)確かに空洞化は由々しき問題です。一部では工場をアメリカとFTAを結んだ韓国に移転させる検討もされています。
(2。2)10年の猶予期間ですが充分でしょうか。10年はあっという間です。特に日本の決められない政治が続くのであれば何も出来ずにTPPを迎えてしまう事にもなります。10年間に総理大臣が10人も誕生するようでは、困ります。
(2.3)農産物の輸出は一部で実行されていますが。しかし増大する輸入農産物をカバーするだけの輸出は簡単ではないでしょう。少なくとも農家の方が国を頼らずに、自力で販路を開拓するする努力が必須条件です。対応できない農家は離農という事にもなる可能性があります。
TPPに関する誤解
次にTPPに関する誤解を見てみましょう。
TPPに参加すると、結局はアメリカの意のままになるのではないかという危惧があります。TPPの原点は、2005年に、シンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリの間で締結された経済連携協定です(図参照)。いわばアメリカも後から入れてもらう立場なのです。アメリカの主張もそうやすやすと受け入れられるかどうか。現実に交渉はかなり難航しているようです。WTOと同様に、結果的に交渉が決裂という事も考えられないわけではありません。
対中国ですが、TPPは中国と対立するものではありません。あくまでもTPP交渉が成就したとしての話ですが、中国がTPPの参加を突然表明することも考えられます。参加各国にとり市場としての中国は少なくとも日本より魅力のあるものと映るでしょう。中国にしてもアメリカにしても、国同士の関係は今までの古い付き合いより、将来の利害関係を優先するでしょう。
賛成・反対、どちらにしてもTPPの問題は日本の方向性を大きく転換させる里程標となります。現状維持という事は有り得ません。双方の主張を検討してそれぞれ自分で考えていくことが必要だと思います。
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