債券の判断材料としての“格付け”【2012年 第7回】

【2012年 第7回】 債券の判断材料としての“格付け”  ケース別コラム – 経済統計から考える資産運用

有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール

 

債券発行体の破たんリスクを判断する指標として“格付け”が有ります。その他にも利回りとCDS料率があります。“格付け”の問題点も指摘されています。それぞれの長所と短所を比べて総合的に判断することが必要です。

 

 

 

 

債権は株式に比べて安全性が高いと言われています。株式は投資元本は一切保証されていないのに比べて、債券は満期まで待てば発行体は額面金額を戻してくれます。しかしそれはあくまでも発行体が戻す資産を持っていたら、の話です。“無い袖は振れない”という言葉がありますが、資産が無ければ額面を戻すという約束も履行できません。

民間企業の場合はもちろんそうですが、発行体が国の場合も同様です。最近ではギリシャ国債の元本がカットされました。国であれば最悪の場合、紙幣の増発という選択肢も有りますが、そのような政策は驚異的なインフレをもたらし、為替相場も奈落の底に飛び込むことになります。債権者としては紙幣の増発を避けて元本カットに応じた方がより被害が少なくなるでしょう。

発行体の安全性を評価するものとして代表的なものに格付けがあります。しかしそればかりではありません。債券の利回りやCDS料率も安全性を評価するものとして有用です。

(1)格付け

民間の格付け会社が最上位のAAAから債務不履行状態のDまで(ムーディーズの場合AaaからD)分類します。一般的に安全資産として投資する場合は“BB+”以下は不適格とされています。格付け機関は外資系はスタンダード&プアーズ(S&P)、ムーディーズ、フィッチ、国内では日本格付け研究所(JCR)、格付投資情報センター(R&I)があります。

<長所>
格付けを取得している債券投資の場合、販売者から必ず説明されます。格付け情報は比較的得やすいです。格付け分類も10段階とされ解り易くなっています。

<短所>
同じ発行体であっても、格付け機関により評価の考え方は異なり格付けが違う事があります。複数の機関から格付けを受けている場合はそれぞれを参考にした方が良いでしょう。格付けの手法は公表されていませんので不透明です。実際、リーマン・ショックの時には格付手法に疑念が提示されました。格付けは日々変更されている訳ではなく、発行体の財務状況の急激な悪化に対して変更が遅れることがあります。後になって一気に数段階格下げになることも有ります。最上位のAAAであっても“絶対破綻しない”ということではなく、破綻する確率が非常に小さいという事にすぎません。

(2)利回り

ローンでは信用力の高い貸出先よりも低い貸出先の金利は高くなります。銀行の住宅ローンより消費者金融の無担保ローンが金利が高いのはこのためです。同様に債権の場合も信用力の低い発行体は金利が高くなります。これを破綻確率に応用することもできます。結論は、利回りの高い債券ほど危ない債券になります。

<長所>
利回りは購入時に必ず説明されます。各債権の利回り情報も収集しやすく、特殊な債権を除いては比較することも容易です。国債のように流動性の高い債券ですと財務状況の変化が比較的速やかに利回りに反映されますので、急激な経済変動時には格付けよりも信頼がおけるでしょう。

<短所>
比較をする場合、通貨と期間が同じでなければなりません。10年債と2年債では比較になりません。また日本円とアメリカドルの債券を一緒には比較できません。利回りの中にはその通貨の将来の物価の動向も織り込んでいます。債券の種類、例えば担保付債権、普通債、劣後債など種類の違う債権は同一には論じられません。

(3)CDS料率

クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap:CDS)とは、ある企業等にたいして保険をかけておき、そこが破綻した時にお金を受け取るという契約です。CDS料率とはその保険の料率です。当然破綻する可能性が高い所ほど料率は高くなります。その料率の高低で破たんの可能性を判断します。

<長所>
破たんの可能性だけに着目していますので解り易い。

<短所>
主に金融機関同士の相対で取引されますので料率の情報は得にくい。

以下に主要国の格付けと国債利回りの関係をグラフを使って表しました。利回りは表面上の利回りである名目利回りと、各国の物価上昇率を控除した実質利回りの両方を表しています。物価上昇率はIMFの2012年度の予想値を使っています。

一部例外があるにしても、”AA”以上の債券は利回りが低くなっている傾向がうかがえると思います。その中でも実質利回りでは日本国債は以外と利回りが高いようです。

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