【2012年 第8回】 東京証券取引所と大阪証券取引所の統合
ケース別コラム – 経済統計から考える資産運用
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
両証券取引所の統合、財務的には非常に難航しそうなパターンでしたが、想定以上に順調に進んでいるようです。これも世界的な取引所の合従連合のなかでの危機意識の表れなのでしょうか。
来年(2013年)、“株式会社日本取引所グループ”が発足
8月22日、東京証券取引所の大阪証券取引所へのTOBが成立しました。これで両取引所の経営統合が大きく前進、来年(2013年)1月1日の最終合併、“株式会社日本取引所グループ”の発足への大きな一歩となりました。
今回の合併は、ニューヨーク証券取引所とユーロ・ネクストの統合など、世界的には国境を越えた連合の結成、そしてシンガポール、上海などの新興国の取引所の伸長の中で、日本の取引所が生き残りをかけた2大取引所の合併です。
東京は大手企業の現物株、一方JASDAQを有する大阪は中堅及び新興企業の現物株そしてデリバティブに強い、という特色があります。両社は競合というよりも、むしろ補完関係が強い。その意味で、あくまでも合併後の経営がうまく機能すればの話ですが、相乗効果は強いように思えます。
ただ、ここまで来るには相当の紆余曲折があったと思いますが、私の想像以上に順調にきているようい思えます。何故かというと、事業モデルは別として双方の財務状況は交渉が難航するようなパターンだったからです。
次の両取引所の2012年3月期決算の純資産(グラフ1)と税引後純利益(グラフ2)をご覧ください。
純資産は東京が106,429百万円、大阪は55,485百万円。東京が大阪の約二倍です。一方、純利益は1,686百万円、大阪は5,466百万円。東京と大阪の立場は逆転し、大阪は東京の3倍以上あります。
大阪の収益性の高さは、デリバティブ市場に強いという事の結果だと推測できます。純資産が大きいが収益性が低い東京、一方、純資産は小さいが収益性が高い大阪。両社の財務構造は対照的ともいえます。仮に財務構造が似通っていれば、両者の財務規模に応じて合併比率を決めれば良い話ですが、全く違うと納得のいく合併比率を決めるのは非常に困難です。純資産、純利益どちらに重きを置くかによって合併比率は大きく変わってきます。
しかも、今回は大阪が上場企業に対して、東京は未上場。未上場会社がオーナー企業であれば、過去のキリンビールとサントリー、若干古いですがルクセンブルクの鉄鋼会社アルセロール(現アルセロール・ミタル)とロシアのセベルスターリのように破談になる可能性が非常に高くなります。東京証券取引所は当然ながらオーナー系企業ではないですので、どうにか、ここまでこぎつけられたのだと思います。
今後の課題
大阪証券取引所が上場していることにより、合併後の日本取引所グループの継続的な上場を維持するためにちょっとした技術を使う予定です。最終合併手続きでは大阪を存続会社として東京を吸収するというものです。これによりそのまま上場を維持させることも可能です。ただこれはもちろん違法ではありませんが、大きな未上場企業が形式上より小規模な上場企業に吸収されることにより、正規の上場手続きを取らず、未上場企業を実質的の上場させる、いわゆる“裏口上場”ともいえる手法です。裏口上場は日本では決して無制限に認められるわけではなく、取引所の一定の審査が有りますが、証券取引所自ら行うという事で、裏口上場が無軌道に実施されるようになると証券市場の信頼性にもかかわってきます。今後、海外取引所を含めて、このような裏口上場のルールを確立していく必要があるでしょう。
今回の合併が成立したとしても、それは国内のみの話です。競争相手は国境を越えて事業を行っています。今後は対抗するためにも、国外展開が必要になる可能性が有ります。ただそのためには、海外の取引所と競争条件を同一とするためにも、現在証券取引所に課せられてる一定の外資規制を取り払う必要があるでしょう。その先には証券市場のグローバルな規律も確立しなければなりません。お金が簡単に国境をまたいで移動する時代に、取引者や規制が国境の枠内にとどまっていては、対応が難しくなるでしょう。
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