【2012年 第9回】 デュアル・カレンシー債
ケース別コラム – 経済統計から考える資産運用
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
デュアル・カレンシー債にはいろいろなパターンが有ります。なかには非常に複雑な仕組みの債券も有ります。商品をよく理解していないと、予想外の損失が発生します。購入前には商品をよく理解してください。
デュアル・カレンシー債という金融商品をご存知でしょうか?二重通貨建て債券とも言います。大雑把にいえば外貨建て債券の一種ですが、通常の外債に比べいろいろなパターンが有り、仕組みも複雑です。債券の通貨建てのパターンを表にしてみました。
1.円建債
円建債は最も一般的で、払込、利払、償還も全て円で行います。償還金は債券の発行者が破綻しない限り額面での償還が保証されています。運悪く、発行者が破綻した場合は“ない袖は振れない”という事で償還金がカットされたり、償還が期日より遅れたりすることが有ります。過去に話題になったことがあるEB債などのように、市場動向により額面での償還が保証されていない商品も有りますので注意してください。
2.外債
払込み、利払、償還とも外貨で行われます。一般的には円を外貨に両替したうえで払い込み、利払と償還を外貨で受け立った場合はそれを円に両替する形になります。円建債と同様に発行者が破綻しない限り額面は保証されます。ただし保証されるとはいっても、あくまでも外貨ベースでの話です。円高で外貨が安くなった場合、外貨では額面は保証されても円に両替した場合の償還金は保証されません。一部にヘッジ付外債というのが有ります。これは為替変動のリスクを回避し、円での受取金額も補償するものです。これにより為替変動のリスクを回避し、円建て債と同様の安全性が確保されます。そのかわり利回りも円建て債と同様の利回りになります。
3.デュアル・カレンシー債
①パターン1
払込みと利払いが円で行われ、償還のみ外貨で行われるものです。、利払は少なくとも円建てで固定されています。
②パターン2
払込みと償還が円で行われ、利払が外貨で行われるものです。リバース・デュアル・カレンシー債とも言われています。
現在の金融情勢ではパターン1とパターン2の商品はあまり一般的ではありません。
③パターン3
一般的には、払込と利払いが円で行われ、償還が円または外貨で行われるものです。
この“または”という言葉に注目してください。円と外貨どちらかで償還されるか、これは債券の購入者は選択できません。外貨相場の動向次第で一定のルール―により円と外貨どちらで償還されるか決定されます。もう少し具体的に説明しますと、一定の判定レートをあらかじめ決めておき、そのレートより円高すなわち外貨安であれば外貨で償還、外貨高であれば円で償還される、すなわち円と外貨、購入者にとり不利となる通貨で償還されます。
見方を変えれば、為替差益を受け取るチャンスは限定されますが、為替差損を被るリスクは無制限に引き受けることとなります。利益は限定、損失は無制限、これではこの債権を買おうという人は誰もいませんね。それでは売れないので、その代償として同様な円建て債や外債に比べて利回りが高めとなっています。高い利回りは損失リスクのみを引きうける代償です。
この他にも、期間中為替レートが一定の水準を超えると、強制的に期限前に償還される、などの特約が付いている債権も有ります。パターンは各債権ごとに一定ではありません。
パターン3のデュアル・カレンシー債は仕組みが非常に複雑です。デリバティブのオプション取引が組み込まれています。オプションを売って貰うオプション料が高い利息の原資となっています。購入する場合は説明書をよく読み仕組みをよく理解してからにしてください。いくら読んでも理解できない場合は購入を差し控えた方が賢明かもしれません。
考えられる範囲での悪いケースを想定したうえでの償還金額を考えてみてください。償還の通貨を決める想定レートは現在の想定レートより円高(外貨安)に決められている場合があります。「まさか、期間中にここまで円高になることは無いだろう」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、そんな事はありません。そういう可能性が有るからこそ、この商品が成ったっている訳です。可能性が無ければこのような商品は組成できません。
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