デュアル・カレンシー債(Ⅱ)【2012年 第10回】

【2012年 第10回】 デュアル・カレンシー債(Ⅱ)ケース別コラム – 経済統計から考える資産運用

有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール

 

 

前回紹介しました、デュアルカレンシー債。そのなかでも仕組みが複雑で思わぬ損失を抱え込む可能性のある“パターン3”の商品について、より具体的に事例を見ていきましょう。

 

 

 

デュアルカレンシー債の概要について前回書かせていただきました。その中でパターン3の、償還が条件により円または外貨になる、という最も複雑な仕組みのデュアルカレンシー債について具体例を見ながら考えてみましょう。

具体例として次のような状況を考えてみましょう。

満期時の為替レートが100円、80円、60円の3パターンで受取総額を表にしてみました。

満期時の為替相場に対応した受取金額をグラフで表すと次のようになります。

 

① 1オーストラリアドルが70円以上の場合
80万円の元本は円建てでそのまま戻ります。オーストラリアドルがどんなに高くなっても、為替差益は受け取ることは出来ません。

② 1オーストラリアドルが70円未満の場合
オーストラリアドルで換算した金額で償還されます。1オーストラリアドルが60円の場合、当初1ドル80円で1万ドル購入したとみなされ、それが60円に下がったわけですから、償還元本は60万円になります。たとえ70円をわずかに下回った場合でも、償還元本は一気に10万円程減少します。満期近くに為替相場が70円近辺の場合は気が気ではありませんね。

このパターンのデュアルカレンシー債はさらに複雑な仕組みを備えたものがあります。今回は満期時の為替レートのみで判定していますが、期間中の為替レートの動向により償還通貨が決まってくるもの、例えば期間中にオーストラリアドルが1度でも70円を割り込むと、満期時のレートに関わらず、オーストラリアドルで償還するものとか。また債権発行者が円建てで中途で繰り上げ償還する権利のあるものなど。繰り上げ償還特約が付いている場合、外貨が高くなり元本が確保される可能性が高くなる場合、比較的高い利払を回避するために繰り上げ償還される可能性が高くなります。さらに複数の仕組みを組み合わせたものも有ります。

このような商品はデリバティブを組み込んでいます。複数のデリバティブを組み合わせている商品も有ります。デリバティブを完全に理解するのは困難でしょうが、少なくとも想定される範囲での最悪の事態を考えてください。あまりにも極端なことを考えては何も投資は出来なくなるので。オーストラリアドルでは一部の新興国通貨と違い、1年間で殆ど無価値になる可能性は無いでしょうが40%程度の下落は充分考えられる範囲です。

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