【2013年 第7回 今月の数字7:7年待ってみたけれど…】
相続に関する数字エトセトラ
平川 すみこ ⇒プロフィール
このコラムでは、相続に関して知っておきたい話題を毎月の数字に絡めてお伝えしていきます。
7月の数字は「7」。相続による財産の所有権の移転の手続き等をしようにも7年待つことが必要な場合があります。それはどのような場合でしょうか?
人が死亡すると相続が開始します。亡くなった方が所有していた財産は、相続開始と同時に相続人の共有財産となり、手続き等を経て所有権の移転や売却などの処分ができます。では、行方不明になっていて生死がわからない場合、その方が所有している財産を処分することはできるでしょうか。
■行方不明でも相続が開始する?
相続は死亡によって開始しますが、失踪宣告を受けた者は死亡したとみなされますので、その宣告によって相続が開始します。よって、行方不明の場合、失踪宣告を受けると、その相続人等が行方不明者の財産を処分できるようになります。
「失踪宣告」とは、不在者の生死不明が長期間続いた場合に、その者が死亡したとみなして、従来の住所を中心とする財産上、身分上の法律関係を確定させる制度で、残された利害関係者を保護するために設けられています。
例えば、数年前に夫がふらっと家を出たまま行方不明となり生きているのか死んでいるのかもわからない。帰りを待ち続けていた妻にもやがて好きな人ができ、その男性と結婚したいと思ったような場合。「失踪宣告」を受ければ夫は死亡したとみなされ婚姻関係が解消されるので、妻は再婚することができるのです。
行方不明で失踪宣告を受けた場合の相続については、2011年5月のコラム「行方不明と相続」にも書いていますので、ご参照ください。
■7年経ったら失踪宣告?
死亡原因となるべき危難に遭遇しているような場合の「特別失踪」に該当しない「普通失踪」は、不在者の生死が7年間明らかでない場合に失踪宣告を受けることができます。
行方不明となって7年経過すると自動的に失踪宣告を受けるわけではなく、利害関係人の申立てによって家庭裁判所が失踪宣告をします。
申立てが受理されるとすぐに失踪宣告がされるわけではなく、家庭裁判所が事実調査等をいった上で、失踪について6ヶ月以上の期間を設けて公示催告(家庭裁判所の掲示板に掲示し官報に公告)します。この期間を経過するまでに不在者等の生死が確認されなければ、家庭裁判所は失踪宣告を行い、審判書の謄本が送られ、2週間以内に不服申立てなければ確定となります。このように手続きには1年以上の期間を要します。
なお、家庭裁判所の調査等で、3年前には生存していたことが確認されたというような場合は、それから7年経過しないと失踪宣告は行われません。
■いつから相続が開始する?
失踪宣告を受けると、不在者は死亡したとみなされますが、家庭裁判所による失踪宣告がなされたときに死亡とみなされるわけではありません。「生死不明の7年間」の期間満了時点で死亡したとみなされるので、この時点で相続が開始したことになります。
相続開始の時期がいつになるのか、というのは重要です。なぜなら、誰が相続人になるのかが変わってくることがあるからです。
極端な例えですが、失踪宣告を受けたAさん(被相続人)の相続開始が7月10日で、相続人になるはずの子Xさんがその前日の7月9日に死亡していると、子Xさんは相続人にはなりません。Xさんに子どもや孫(被相続人の孫やひ孫等)がいると、その者が代襲相続人になりますが、代襲相続人になる者がいない場合は、Aさんの父母が相続人になります。
でも、Aさんの相続開始が7月8日であれば、その時期には子Xさんは生きているので相続人になりますね。
また、誰が相続人になるのかは、相続が発生した時点の法律が遡って適用されることになっています。現行法では、兄弟姉妹が相続人になる際の代襲相続は被相続人の甥・姪にあたる者までですが、昭和55年より以前の法律では、その甥や姪も以前に死亡しているような場合は、その子や孫にも再代襲することになっていました。また、相続人が配偶者と子どもの場合の配偶者の法定相続分は3分の1でした(現行法では2分の1)。相続開始が昭和55年より以前ということになれば、その規定が適用されるんですね。
将来においても、法改正によって相続人の範囲や法定相続分の割合といったものが変わることがあるかもしれません。相続開始の時期がいつになるかで相続人や相続分が変わってしまうとなると、生死不明になった起算(開始)時期をわざと変えようとする者もでてくるかもしれないなーと考えてしまうのは私だけでしょうか。
■失踪宣告を受けないで財産を処分することはできる?
以上は行方不明の場合の相続に関しての内容でしたが、生存を信じてずっと待ち続けたいから失踪宣告は受けたくない、でも不在者が所有する財産を処分する必要がある、といったこともあるでしょう。
そのような場合は、家庭裁判所に財産管理人選任等の申立てを行います。選任された不在者財産管理人は、不在者の財産を管理・保存するほかに、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって、不動産の売却等を行うことができるとされています。これは、生死不明になってから7年経過している必要はありません。
共同相続人の1人が行方不明で遺産分割協議ができないという場合も、選任された不在者財産管理人が、家庭裁判所の権限外行為許可を得て、遺産分割協議をすることができます。
具体的な相続や申立て、財産管理の問題に関することは、家庭裁判所や弁護士等にご確認・ご相談ください。
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