【2016年 第2回 空き家の所有者が死亡・認知症になった場合は?前編】相続・遺言・成年後見の実際の現場から新シリーズ
竹原 庸起子 (タケハラ ユキコ)⇒ プロフィール
相続専門のファイナンシャルプランナー・行政書士の竹原庸起子です。
今年のコラムでは相続の実際の現場から新シリーズとして、実際に起こった相続関連のできごとをストーリー形式でお伝えします。
1、統計データから見た空き家の現状
最近は全国的に「放置空き家」の増加が社会問題になっています。
「空き家」は、既存住宅のうち、「居住者のいない住宅」のことを言い、うち放置空き家になっているのは長期不在などを理由に居住者がいない、建築物等が長期間にわたって使用されていない状態をいいます。
この「空き家」の総数はこの20年で倍増しています。1993年 448万戸であったのが、2013年には820万戸にまで増加しました。
空き家率(総住宅数に占める割合)は平成10年に初めて1割を超えて11.5%となり、平成25年には13.5%にまで上昇しました。これは空き家数、空き家率ともに過去最高です。
<参考>平成25年10月1日現在における我が国の総住宅数は6,063万戸で、5年前と比較すると304万戸の増加、増加率は5.3%となりました。平成10年からの15年間では総住宅数は1,000万戸以上増加しています。
(出典 平成25年総務省統計局 空き家等の住宅に関する主な指標の集計結果について)
2、なぜ空き家が増えるのか
ところでなぜこんなにも空き家が増え続けているのでしょうか。
それは「高齢社会」と「高齢者のみの世帯数の増加」が原因ではないかと考えています。
まずは「高齢社会」について見てみましょう。
日本の総人口は2010年には1億2,800万人であったのが、2060年には約8,600万人にまで減少し、15歳から64歳までの生産年齢人口、0歳から14歳までの若年人口の減少が著しく、高齢化率が上がることが予想されています。
次に「高齢者のみの世帯数の増加」について見てみましょう。
厚生労働省平成26年国民生活基礎調査によると、次の通りです。
「65歳以上の者のみの世帯数」は、平成元年は303万5千世帯で65歳以上の者のいる世帯全体の28.2%であったのが、平成26年は1,219万3千世帯で51.7%にまで上昇しました。
高齢化率が上がることと高齢者のみの世帯が増えることはその住まいにも影響します。
高齢夫婦のみあるいは高齢者の一人暮らしの場合、住む家は広すぎて管理に困り、狭い家へ転居したり、子どもと同居したりして今のすまいが必要なくなるケースが増えてきます。
3、なぜ空き家になるのか
空き家所有者が空き家にしている理由はなんでしょうか。
統計によると、物置などで使っているから38.4%、特に困っていないから24.0%、解体費用が用意できないから20.7%となっています。(平成25年住生活総合調査確定結果より)
ほかに当方が相談を受けた際のアンケート「空き家にする理由」としては、
・空き家の所有者が行方不明であるため
・空き家の所有者が死亡したが相続手続きをせずにほったらかしにしているため
・空き家の所有者が認知症になる等、高齢で介護施設へ移り必要なくなったため
などがありました。
4、所有者が死亡し空き家が放置される事例
このように空き家が増え続けている現在、相続や住宅に関する相談で実際にあった空き家の売買まつわる実話をお伝えします。以下より相談者は空き家を買いたいAさんとします。
本編では「空き家の所有者が死亡したが、その空き家を取り壊したい、その空き家を売りたい場合」についてとりあげます。
土地購入を考えていたAさんはある古い空き家の所在する土地が希望する立地条件に合致していたので、その住宅と土地とを買い取り、住宅を取り壊して自身の住宅を建築したいと考えました。
まずは古い空き家の所有者と連絡をとろうと、その住宅の登記事項証明書を管轄の法務局で取得し、甲区欄記載の所有者欄を確認すると所有者の住所氏名が記載されていました。
記載されているその所有者の住所地をたずねてみると、そこには所有者の家族が住んでいました。
その家族によると所有者は1年前に他界したとのこと。
所有者が他界したあとはだれも住まずにほったらかしにして、かつ名義変更もせずにいたとのこと。
実務上、死亡した所有者名義のままではその空き家を売ったり、構造を変えるようなリフォームなどの増改築をしたりすることはできません。まずは相続登記手続きが必要なのです。
相続登記手続きをするということは、死亡した空き家所有者に遺言書があった場合はその遺言書の記載のとおりに名義変更、遺言書がなかった場合は、所有者の相続人らが遺産分割協議をしたうえで、相続人のうちの一人もしくは複数人への名義変更をするのです。
そうしないとその空き家を売ることも大規模リフォームすることもできないのです。
このことをAさんに告げると、Aさんは、さっそく空き家の所有者家族へ相続登記手続きをお願いに行きました。
すると、その所有者は遺言書を残しておらず、相続人のうち1人が行方不明であるというではありませんか。
相続人に行方不明者がいるのであれば、遺産分割協議ができないため、結局この空き家の相続登記手続きはできず、Aさんは買い取りを断念しました。
この実話のようなケースは非常に多く、相続登記手続きできずに相続人が何も手を付けられないため放置空き家になってしまっているのです。
こうならないためには、空き家所有者が生存中に、万一の時に空き家をその後だれが使うのか、使わないのならば処分をどうするのかをしっかりと決めておき、その準備として遺言書を残しておくなどが必要なのです。
元気なうちに、今住んでいる自宅の行く末の準備をしておきましょう。
次回後編では「空き家の所有者が認知症になった場合」についてお話します。お楽しみに。
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