遺言とエンディングノートの活用場面の違い【2016年 第3回】

【2016年 第3回 遺言とエンディングノートの活用場面の違い】相続・遺言・成年後見の実際の現場から新シリーズ

 竹原 庸起子 (タケハラ ユキコ)⇒ プロフィール

相続専門のファイナンシャルプランナー・行政書士の竹原庸起子です。今年のコラムでは相続の実際の現場から新シリーズとして、セミナー参加者や個別相談での相談者から聞かれる内容をもとにお伝えします。
今回は特に高齢社会の到来で注目度が高い、生前準備として残す「遺言書」と「エンディングノート」の違いを説明します。

1、生前準備に活用したい遺言書とエンディングノート

最近では遺言書やエンディングノートのセミナーが全国各地で開催されており、高齢者とその家族の関心の高さが伺えます。
家族態様の多様化(核家族化、事実婚の増加、シングルの増加)により、相続が発生したら昔のように子どもたちが相続するケースばかりではなく、兄弟姉妹・甥姪が相続するケースも多く見受けられます。
これがまさに「相続争い」につながり、争いを防止するには「遺言書」が有効なのです。

しかしながら遺言書には気をつけるべき点がいくつかあり、不備が多いとせっかく残した遺言書がよけいに相続人の紛争を引き起こすこともありますし、法的効力のないエンディングノートを残した場合は、遺言書とエンディングノートとの違いを理解しておかなければ「エンディングノートを残したのだから私が死んでも財産のことは大丈夫」という思いこみにつながります。

そこで今回は遺言書とエンディングノートとはどう違うのか、また、どのように使い分けたらいいのかをお伝えします。

2、遺言書とは民法で規定されたもの

遺言書は法的形式の整ったもののみ効力を生じます。
遺言書には民法上、数種類ありますが、特によく利用されているものはそのうち2つで「自筆証書遺言書」と「公正証書遺言書」です。

自筆証書遺言書とは、遺言者がその全文、日付および氏名を自署し押印しているという要件を備えたものです。
公正証書遺言書とは、遺言者が公証人の面前で遺言の内容を口授(言葉で話して伝えること)し、それに基づいて公証人が遺言者の真意を正確に文章にまとめ、公正証書遺言書として作成するものです(日本公証人連合会HPより)。
遺言者というのは遺言を残す人のことで、公証人とは実務経験を有する法律実務家の中から法務大臣が任命する公務員で、公証役場で公正証書の作成などの任務を果たすことが仕事です(日本公証人連合会HPより)。
公正証書遺言書は遺言をする日に2名の証人の立会のもとで行われます。

遺言書を残しておくと、遺言者が死亡したときは、その遺言書の内容通りに財産を相続させることができるという効力があります。
遺言で効力を生じさせることができるのは、「財産の相続方法」「認知」「未成年後見人の指定」などと法律上決まっています。
また、この効力はなくても、遺言者の思いや家族へのメッセージ、生まれてから死ぬまでの経歴や出来事を伝えるために、遺言書の最後に「付言事項」という項目を付け加えることができます。
この付言事項の部分だけを抜き出したようなものがエンディングノートです。

3、エンディングノートは法的効力がないが「自分の人生の意思表示」

エンディングノートは今までの自分と家族の人生の振り返り、これからの人生の未来予想図を書いて、周りの人に伝えるメッセージ性の強いものです。
エンディングノートは多くの種類が市販されていますが、自分で日記やワード文書で作成してもいいのです。
もし自分で作られる場合、その構成は次の通りにされてはいかがでしょうか。

①今の自分と家族の基本情報
②自分史(職歴・付き合い・友人・健康状態)
③財産目録(不動産・預貯金・株式・投資信託・保険・貸したお金を返してもらう権利・借金・ローン)
④介護・医療・看取り
⑤相続のこと
⑥葬儀・お墓・仏壇

これらに記載したことは、あくまで書いた人から周りの人へのメッセージに過ぎず、周りの人がその通りにしなければならない法的拘束力はありませんが、周りの人にとっては、書いた人本人の人生の転機の折に、本人が倒れて意思表示ができなくても本人の思いを汲み取り、行動に移すための指針になるのです。

4、遺言書とエンディングノートの使い分け

相続対策、相続税対策のためには法的な効力を生じる遺言書で確実な相続財産の移転を準備しましょう。
遺言書に書けない内容、書く必要がないが自分の死後に回りの人へ伝えたいことはエンディングノートに書きましょう。

そして、どちらか一方だけ残しておくのではなく、遺言書とエンディングノートと両方とも残しておくことをお勧めします。
民法で規定された遺言書で書けば法的効力が生じる内容は遺言書で確実にして、それ以外はエンディングノートで補うのです。

遺言書でできることとできないことについては過去のコラムを参照ください。

https://www.my-adviser.jp/column/detail.php?id=1088
相続の実際の現場からレポ
2014年 第4回~遺言でできること、できないこと②~

https://www.my-adviser.jp/column/detail.php?id=1078
相続の実際の現場からレポ
2014年 第3回~遺言でできること、できないこと①~

5、ほかにもあるエンディングノートの活用法

エンディングノートは死後のための生前準備のツールですが、それ以外にも活用法があります。

まずは、自分を客観的に見つめるための振り返りに使えるものといえます。
人生の転機を迎えた折に、今までの自分の人生を振り返り、その後の人生を見つめなおすことができますね。
また、自分が倒れた時、認知症になったに自分が意思表示できないことをふまえて、介護や医療のこと、残されるペットのことを書き留めておくことによって、認知症になった時に後見人が選任されても、後見人はエンディングノートの記載内容に沿ってご本人のために医療や介護の手続きができますね。
秘密事項を告白するためにもエンディングノートは使えます。

つまり、エンディングノートは死後のための生前準備だけではなく、残された人生を自分らしく生きるためのノートでもあるのです。

エンディングノートはスターティングノートでもあるのです。

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