【2016年 第4回 空き家の所有者が死亡・認知症になった場合は?後編】相続・遺言・成年後見の実際の現場から新シリーズ
竹原 庸起子 (タケハラ ユキコ)⇒ プロフィール
相続専門のファイナンシャルプランナー・行政書士の竹原庸起子です。
今年のコラムでは相続の実際の現場から新シリーズとして、実際に起こった相続関連のできごとをストーリー形式でお伝えします。
今年度第2回目コラムにて、「空き家の所有者が死亡していた場合」の法律問題や手続きについてお伝えしました。
今回はその続編として「空き家の所有者が認知症である場合」に関係者がまずすべきことや法律手続きおよびそのポイントについてお伝えします。
1 認知症になったら成年後見制度を
空き家の所有者が認知症もしくは別の疾患で判断能力が低下していると診断された場合に、法律上注意すべきポイントは何でしょうか。
認知症になった後に必要で、なる前に備えておける手続きである「成年後見制度」について、まずは簡単にお伝えします。
成年後見制度とは、認知症の方、知的障がいのある方、精神障がいのある方など判断能力が不十分な方々を支援する制度です。
これらの状態になった後の法定後見制度となる前の任意後見制度と大きく分けて2種類あります。(下記参照)
法定後見制度
認知症などですでに判断能力が低下している場合に、本人の個別事情に応じて、家庭裁判所が適切な支援者(後見人・保佐人・補助人のいずれか)を選びます。
選ばれた支援者が、本人に代わって代理人としてもしくは同意できる人として契約などの法律行為や財産管理などの必要な支援をします。
任意後見制度
判断能力があるうちに、将来の支援者である代理人(任意後見受任者)を定め、自分の判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ「任意後見契約」を公正証書で結んでおきます。
将来自分はどんな生活をしたいかなど、自分の将来を自分で決めることができます。
支援する人を「後見人」「保佐人」「補助人」といい、支援される人を「被後見人」「被保佐人」「被補助人」といいます。
2 成年後見制度でできることとできないこと
では成年後見制度で支援者ができることとできないことは何かを見ていきましょう。
できることは「財産管理」と「身上監護」とに分けられます。
支援者はこれら双方ともを支援する場合と片方だけの場合とがあります。
≪成年後見業務でできること≫
(1)財産管理
①金融機関とのすべての取引
②必要な費用の支払い
③居住用不動産の維持・管理
④日常生活での金銭管理
⑤寺社への贈与(本人が行ってきた寄付、寄進等の継続)
⑥本人に必要な衣類や生活用具の購入
⑦その他の財産の維持・管理・処分
(2)身上監護
①病院等の受診、医療・入退院等に関する契約、費用支払い
②住居の確保に関する事項
③施設の入退所、処遇の監視、異議の申し立て等に関する事項
④介護、生活維持に関する事項
⑤教育、リハビリ等に関する事項
⑥その他契約の履行に関する追跡調査
これに対して支援者ができないことは次の通りです。
≪成年後見制度でできないこと≫
(1)本人の日用品の購入に対する同意・取消
(2)医療行為に関して、同意すること
(3)事実行為
(4)身元保証人、身元引受人、入院保証人等
(5)居住する場所への指定
3 空き家の所有者が認知症と診断され、売買する事例
ところで、前回のコラムでお伝えしました通り、空き家は増え続けています。
そこで「空き家の所有者が認知症と診断された場合、その空き家を取り壊したい、リフォームなどの増改築をしたい、その空き家を売りたい、誰かに貸したいがどうしたらいいのか」という相談を受けることが増えましたので、実際にあった空き家の所有者にまつわる実話をこのコラムでお伝えします。
以下より空き家所有者をAさんとします。
最近「認知症であり判断能力の低下が始まったAさん」の家族が相談にきました。
Aさんは認知症だけではなく大病の診断も受けたため、九州の実家へ移り住んで病気療養中です。
そのため以前住んでいた大阪府内の一戸建ては空き家になっており、今後住む予定がありません。
この空き家を誰かに買ってほしいので不動産業者を紹介してほしいとのこと。
相談を受けた当方はAさんの家族に対してまず次の2つのことを確認しました。
一つ目は、判断能力の低下とはどのような程度なのか、主治医の診断はあるのかということです。
判断能力の低下の程度によって、後見・保佐・補助のうちどの制度を使うのがいいのかが変わってくるからです。
二つ目は判断能力が低下する前に任意後見契約の備えをすませているかどうかです。
これがあれば、所定の手続きを踏めばAさんが自分の判断能力が低下した時には法律手続きを代理してほしいと元気な時に望んでいた人が任意後見人となり、その任意後見人が空き家の売却手続きをするからです。
Aさんの家族によると、Aさんには任意後見契約の備えはなく、現在すでに判断能力は著しく低下していて、何を聞いても自分で考えて答えることができないため、Aさんの主治医からは「後見相当」との診断がくだされており、診断書も用意できるとのことでした。
Aさんが空き家を売却する場合はAさんの家族が、成年後見人選任を家庭裁判所へ申し立てなければなりません。
Aさんの家族は成年後見人にAさんの長男を選任してほしい旨申し立てしました。
申し立てをしたからといって必ずしも成年後見人になれるとは限りませんが、Aさんの場合は無事長男が後見人に就任できました。
これでAさんの長男が成年後見人として選任されて就任したので、Aさん名義の空き家を長男がAさんの代理人として売却することができます。
ただし「居住用不動産の売却」には、成年後見人が代理をして手続きする前に、家庭裁判所の許可が必要であることに注意しましょう。
具体的な手続きとしては、成年後見人である長男が事前に家庭裁判所に「Aの居住用不動産を売りたいのだが、固定資産税評価額以上で売れるそうなので、いいですかね?」というお伺いを「連絡票」という文書を事前に送り、Okをもらえば不動産を売りに出せます。
売りに出した不動産の買い手がついたら、「居住用不動産の売却許可」を成年後見人が家庭裁判所に申請し、許可が下りてから成年後見人である長男がAさんの代理人として売買契約および代金決済をおこないます。
空き家の所有者が認知症と診断された場合は、所有者は売買契約を単独でおこなうことはできません。
まずは主治医に認知症の進行度を診断してもらうこと、任意後見契約の有無を確認することをしてください。
そこで家庭裁判所に後見申立の手続きをとりましょう。
空き家を賃貸に出す場合、リフォームをする場合も同じくです。
よって空き家の所有者が認知症と診断された場合は、成年後見制度を利用しなければなりませんので、ご注意ください。
できれば事前に任意後見契約を締結しておければスムーズですね。
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