【2014年 第2回】 デフレ脱却は成功する?。知っておきたい、投資・経済・金融の考え方
有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール
2014年6月から物価が上昇に転じています。このまま物価上昇が持続するのでしょうか?その可能性を、物価上昇の要因別、産業別に考えてみましょう。そして好ましい物価上昇とは?
「グラフ1」は2013年2月から2014年1月までの前年同月と比較した消費者物価上昇率です。2014年4月に日本銀行が新体制下で金融政策を大きく緩和方向に舵を切りました。その後6月から長期間マイナスに沈んでいた消費者物価上昇率がプラスに転じました。11月には1.5%に上昇し、日銀の目標である2%に順調に近づいているようにも見えます。
1.物価上昇の要因
ではなぜ物価が上昇したのか?次の4点が考えられると思います。
1日銀の金融緩和による市場に出回るお金の量の増大。2日本の物価上昇期待(円の実質的価値の目減り)による円安。3原子力発電所停止に伴うエネルギーコストの増加。42014年4月の消費税増税を見越した駆け込み需要。要因をマネー、供給、需要に分類してみましょう。1がお金の量を増やす効果、2と3は供給側のコスト増加、4は需要の増加
2.品目別物価上昇率
それでは、次に各品目別の物価上昇率を見てみましょう。
「グラフ2」は2014年1月の前年同月消費者物価上昇率を主要品目別に比較したものです。
ここでは全品目が上昇していますが、なかでも特に電気・都市ガス・水道、すなわちエネルギー関係の上昇率がひときわ高くなっています。これは原発停止に伴うより高コストの代替燃料への転換。そしてその代替燃料の大半が輸入に頼っていることにより、円安による代替燃料の価格そのものの上昇が考え
られます。前者の直接的な効果は電力だけに限られますが、後者は電力・ガスにも幅広く効果が及びます。原発再稼働が全く不透明な状況ですが、もし原発停止が長期にわたる、ということになれば電気料金のさらなる値上げの可能性が高いでしょう。そうなると、仮に円安が小康状態を保ってもエネルギー価格の上昇は避けられません。
この影響はエネルギー価格だけにとどまりません。当然、電気・ガスを使わない産業は有りませんのでその効果は、大小は有るにしてもすべての産業に及びます。
一方、サービス価格はわずかの上昇にとどまっています。これも金融緩和の効果がサービス産業に及ばない、とするのは早計でしょう。サービス業では費用の中でも人件費のウェイトが大きくなります。ただ人件費の引き上げまではタイムラグがあります。これからも景気の好循環が持続するとされるのなら人件費の増加を通じて、サービス価格の上昇に波及する可能性があります。
3.良い物価上昇とは
先ほどあげた4点はいずれも一時的な効果にすぎません。金融も無制限に緩和できるものでもありません。円安も均衡点に達するとそれ以上進行することはないでしょう。良い物価上昇は景気が持続的に上昇し、所得向上による需要増の結果、物価が上昇することです。コストの増加による物価上昇、それ自体としては望ましいものではありません。
物価が上がれば景気が良くなる、というわけではありません。1970年代には不況と物価上昇が同時に起きたスタグフレーションにより、先進国は傷つきました。今の物価上昇が望ましい物価上昇かどうか?
持続的な物価上昇には人件費の上昇が必須でしょうが、それにはサービス産業の物価がどのように推移するのか、そのあたりがポイントになるかと思います。
そして何よりも、物価上昇は手段であって、目的ではありません。持続的な経済成長、そのためには実質GDPが上昇することが必要です。GDP上昇無くしては国民はインフレに苦しめられるだけです。
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