【2011年 第3回】 有事のドル買い
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有事のドル買い?
有事のドル買いという有名な言葉がありますが、今回の中東情勢悪化の中では、逆に米ドル安が進行しています。米国の当局者、著名投資家、エコノミストのレポートなどでも、あまりにも示し合わせたように米ドルに不利な情報が流れてきています。
「有事のドル買い」という言葉があるように、例えば戦争などの有事の際には、資金の安全な逃避先としてドルが選好されやすいと考えられてきました。しかし ながら、日本のメディアでさえ連日取り上げるほど、中東情勢が緊迫しているのにも係わらず、米ドルからの資金の逃避、米ドルの下落が止まりません。
米ドル/円では日本の債務問題や政治問題の混乱もあり横ばい状態が続いていますが、スイスフラン/米ドルは高値を更新し続けていますし、ユーロ/米ドルも 3/4には4ヵ月ぶりに1.4ドルを付けました。ドル建て金価格も史上最高値を更新し、石油産油国である中東情勢の緊迫化ということもあり、NYWTI原 油先物もついに1バレル=100ドルを突破しました。
米国当局者や著名な投資家やエコノミストからも、まるで発表された強い経済指標を打ち消すかのようなタイミングで、米ドルの評価をさらに下落させようとしているかの様なコメントが相次ぎました。
3/1、2のバーナンキFRB議長の議会証言も、特に州政府単位での財政悪化と、それに伴う人員削減、支出削減、そして増税が、米国経済回復の向かい風と なること、さらに年金やヘルスケア制度の費用負担が、地方債市場の不安要因となっていることに触れた部分では、米ドルに対してネガティブな印象を受けるも のでした。
4ヶ月ぶりに1.4ドル台を突破したユーロ/米ドルですが、ではユーロ圏の財政問題が回復したのかというと、とてもそうは思えません。財政状況が比較的に 健全な国と危機的状況の国の間の溝は大きく、未だに国債金利差やCDSスプレッドやドイツ国債との金利差は高止まりしたままであり、投資家のユーロに対す るガードは下がっていないことを表しているようです。
図 CR ユーロ諸国(イタリア、スペイン、アイルランド、イギリス、ギリシャ、ポルトガル、ベルギー)のドイツ10年国債との金利差の推移
3/4には、フィンランド・ヘルシンキで、独メルケル首相や仏サルコジ大統領などのヨーロッパのリーダーが集まり、ソブリン財務危機とユーロ圏の行く末に ついて話し合いが持たれました。また3/11からはブリュッセルでスペシャルユーロ圏債務危機サミットの開催が予定されています。
ユーロが買われる理由
それでもユーロが買われる理由の一つとして、利上げ観測が挙げられます。ECBは政策金利を22ヵ月連続で1%に据え置かれましたが、会見したトリシェ総裁からは連続利上げとはならないものの、4月にも利上げをするかもしれないとの発言がありました。
ユーロの価値を守り物価を安定させるためにも、インフレの芽は早めに潰しておきたい、という考えももちろん理解できます。一方で、実際に金利が上昇し始めた場合に、PIIGSのような財政難にあえぐ国々が耐えることができるのかには、不安を感じざるを得ません。
米ドルとユーロの金利差に加えて、米国の財政不安や中東における米国の影響力の低下も、有事のドル買いが見られない理由として考えられるようです。今後長 期的に、米ドルあるいは米国が世界経済の中でどのような立ち位置をとるのかは非常に興味深いところです。また短期的には、現在の米ドルが弱含む展開が一方 的に進めば進むほど、その反動に対する警戒が必要かもしれないと感じています。
参考
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