なんだか最近生活が苦しい!どうして日本はまずしくなったの?【yahoo!コラム転載 2010年 9月掲載】

 

執筆者名:樗木 裕伸

 

なぜ貧しくなったのか?

最近、ニュースや新聞で給料が減ったとか、ボーナスが減ったといった話をよく見聞きしますよね。わたしもお客様からローン返済の相談や相続準備の相談を受けていると生活が苦しくなったという話をよく伺います。
どうして日本はまずしくなったのんでしょう?以前と何が違うのでしょうか?経済の基本的仕組みを使って説明してみますね。

 

経済の基本的な仕組み

 

景気を良くするにはお金を使うこと、なんて聞いたことありますよね。でもどのように世の中をお金が回っているのかイメージがつきづらいですよね。

そこで、おにぎりだけを作っている「おにぎりの国」をモデルに見ていきましょう。
「おにぎりの国」の登場人物は、農家と農協と米屋とおにぎり屋、そしておにぎりを食べて生活している消費者。
消費者といっても消費だけをする人がいるわけではありません。農家、農協、米屋、おにぎり屋の人々が生きていくために、おにぎりを食べるわけですから、
「消費者=農家+農協+米屋+おにぎり屋」
ということになります。

図1を使って説明していきましょう。

【図1】

(1)まず、農家が米をつくります。とれたお米を「20円」で農協に販売します。この時、農家は特に材料を使わなかったので、自由に使えるお金は「20円」です。

(2)次に、農協は、農家から「20円」でお米を仕入れて、米屋に「30円」で販売しました。この時農協の自由に使えるお金は「10円(=30円-20円)」です。

(3)同様に、米屋は、農協からお米を「30円」で仕入れて、おにぎり屋に「50円」で販売します。米屋の自由に使えるお金は「20円(=50円-30円)」です。

(4)最後に、おにぎり屋は、米屋から「50円」でお米を仕入れて、ご飯を炊いておにぎりを握って消費者に100円で販売します。この時、おにぎり屋の自由になるお金は「50円」です。

ここで、「自由に使えるお金」とは、文字通り手元に残ってお財布に入ってきたお金です。これは、自分が生産の過程に携わることで新しく生み出した価値ですので、「付加価値」と呼ばれます。
通常は、服を買ったり、電化製品を買ったりといろいろなものにお金を使えます。ただ、このおにぎりの国では、「おにぎり」しか商品がありませんので、皆おにぎりを買うことになります(ちょっと変な感じですが、話を簡単にするためにお付き合いくださいね)。

 (1)~(4)の流れで得られた「自由に使えるお金(付加価値)」の合計は、100円でした。これは、消費者がおにぎり屋に支払った金額と同額です。
つまり、おにぎりを生み出した価値(生産)と生産にかかわった皆の財布に入ってきた金額(分配)と消費者が支払った金額(支出)が等しくなることがわかります。

生産=分配=支出(=100円)

という関係が見えてきます。これを経済学では、「三面等価(さんめんとうか)」と呼んでいます。また、おにぎりの国の経済が生み出した価値の合計(付加価値の合計)、ここでは100円を「GDP」(国内総生産)と呼んでいます。よく景気が良くなった悪くなったというニュースで聞く単語です。

このように付加価値を生み出した分だけお金がお財布に入ってきて、その分だけお金を使えるわけです。ですからGDPが100円から200円に大きくなればその分いろんな欲しいものが買えるようになります。景気が良いと感じるときは、GDPが拡大しているわけです。
ただ図11の状態では、入ってきた分だけお金がでていくので、お金は残らないですね。つまり貯蓄できる金額は0円ということです。
このままでは、国全体がお金持ちとは言えないですよね。
次に高度経済成長などと呼ばれたかつての日本の状況をみてみましょう。

 

経済成長時の経済構造

図2を見てください。

図1と同じように「おにぎりの国」の図ですが、1箇所だけ異なります。図1ではおにぎりの生産高が100円でしたが、図2では150円です。
おにぎりの国のおにぎりがおいしいと評判で、他の国が「おにぎりが欲しい」ということになって50円分輸出をしています。
その結果
(1)付加価値の合計が100円→150円に増加

(2)分配されるお金が100円→150円に増加

(3)国内消費は100円で変わらないので貯蓄額が0円→50円に増加

というように変化しています。

【図2】

 

つまり、海外からお金が入ってきた分だけ国内に貯蓄されることになります。高度経済成長時代のかつての日本は、自動車、電化製品などを中心に輸出をすることで国内に大きな貯蓄を蓄えてきたわけです。
それでは、現在はどうでしょう。

 

現在の経済構造

図3を見てください。
図1、図2と同じように「おにぎりの国」ですが、農家と農協と米屋が海外にいってしまい、国内には、おにぎり屋だけになっています。
その結果
(1)おにぎり屋は海外の米屋から安く米を仕入れることができるようになったので、今まで100円で販売していたおにぎりを75円で販売できるようになりました。

(2)その結果、消費も75円で済むようになっています。

(3)ところが分配はおにぎり屋だけの50円になっています。

(4)結果として貯蓄が25円減少しました。

というように変化しています。

【図3】

高度経済成長時と違って輸入が増えることで貯蓄が減少しています。従来国内で分配されていた金額が海外へ流出してしまっているからです。「産業の空洞化」などと呼ばれてきた現象ですが、これこそが日本が貧しくなってきた原因です。
かつての日本が「世界の工場」として世界中の製品を作っていたときは、輸出を通じて国内にお金が分配されていました。
現在は、日本で作るコストが高くなったので、海外で生産されるようになっています。安い製品が国内に入ってくることでお財布からでていくお金は少なくて済むのですが、安い海外製品を購入することでますます分配される金額が減りお財布にお金が入ってこなくなっているわけです。
このようにモノの値段である「物価」は下がります(デフレ)が、稼ぎも減っていくという悪循環(デフレスパイラル)になっています。
では、今後どのようになっていけば景気がよくなるのでしょう。

 

今後はどうする?

 

今後、日本の経済が良くなり、また生活が楽になるには、図22のような経済成長時の構造に変えることです。つまり海外から国内にお金を引っ張ってくることです。
では、どのようなところに可能性があるでしょう。

国の施策では、「環境」「観光」などが重点施策として打ち出されています。
単純な生産が海外にシフトする流れは変えられませんよね。ですから、ハイテクのように簡単にまねられない分野が注目されます。特に先進国として公害などに対処してきたノウハウなどを生かした環境技術などは日本が大いに強みを発揮できる分野でしょう。
また、モノづくり以外ではコンパクトに歴史・文化や四季折々の自然などを楽しめる観光資源や、海外でも高い評価を得ている漫画・アニメなどのソフト資源なども大いに海外に向けて発信したい分野ですよね。

日本は今、モノづくりに最適化した経済構造から新しい経済構造への転換期と言えるでしょう。
従来のようなあまり使われない道路や施設を税金で作る公共工事や消費を増やす目的で現金を配った定額給付金などのばら撒き型 の経済政策で一時的に「支出(消費)」を増やしたとしても海外にお金が流出するだけで根本的な解決にならないことは、図33の構造からよく分かると思います。ですから私たちは、公共投資や補助金などの景気の刺激策は、あくまでも短期的なものであることを自覚して、じっくりと腰を据えて新しい経済構造の構築に取り組んでいくことが大切だと思いませんか。

 

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