【2013年 第6回 誰もがリスク商品を持っておくべき3つの理由】
最新ニュース解説。FPとして言わせていただくと…
菱田 雅生
わが国の確定拠出年金制度(DC)は、法律の施行から12年が経過し、導入企業
数は18,000社弱、加入者数は企業型と個人型の合計で500万人近くにまで増加し
てきました(平成25年8月末現在)。しかし、加入者が選択している商品は、依
然として投資信託よりも元本確保型商品(定期預金や保険商品など)のほうが
多いようです。元本確保型でも税制優遇は受けられますので問題があるわけで
はありませんが、元本確保型ならではのリスクの存在を認識している人は少な
いように感じられます。今回は、DCの制度に限らず、元本確保型商品のリスク
に関連して、すべての人がそれなりにリスク商品を持っておくべき理由をまと
めたいと思います。
最近の新聞記事に、確定拠出年金(DC)の制度における想定利回り(2%前後の企業が多い)を達成す
るには元本確保型商品の現在の金利水準では無理なので、「若い人ほど投資信託で増やしていくことを
考えるべきだ」とか、「投資信託で攻めの運用を」などといったようなことが書かれていました。けっ
して間違いだと言いたいわけではありませんが、元本確保型でも今後の金利動向によっては想定利回り
を上回る可能性も考えられますし、投資信託が必ずしも想定利回り以上に増やせるかどうかはわからな
いことを考えると、想定利回りの高さを理由に投資信託の利用をすすめるのは、好ましくないのではな
いかと思います。
このことは、銀行や証券会社の窓口などで、一般のお客様に対して「いまの預貯金金利ではちっともお
金が増えていかないので、投資信託で増やしていくことを考えましょう」などと提案するのと同じで
す。これ自体もあまり好ましくないセールストークだと思います。すべての投資信託が預貯金金利を上
回る実績を常に残しているのであれば問題はありませんが、実際には預貯金のほうが安全で確実だった
ということも多々あります。そもそも預貯金などの元本確保型商品と投資信託などのリスク商品は、根
本的に商品性が違うので、どちらが有利だとか不利だとかを単純に比較してはいけないものだと思いま
す。相撲の力士とプロレスラーのどちらが強いかと言っているようなものです。
そうなると、やはり、増えるかどうかがわからないようなリスク商品などは持たずに預貯金などの元本
確保型の商品だけを利用しておくのが安全で確実ではないか、と考えてしまう人が出てくるのも当然で
しょう。しかし、投資信託などのリスク商品は、誰もが多少は持っておくべきものなのです。その理由
には、以下の3点が挙げられます。
理由1:インフレに備えるため
インフレ(=インフレーション、物価上昇)が起きると、実質的にお金は目減りします。昭和の時代の
ように物価上昇率が預貯金金利を上回る状態が続くと、見た目には着実に増えているように見えても、
それ以上の物価上昇によって実質的には目減りしてしまうのです。例えば、預貯金金利が1%で物価上
昇率が2%だと、100万円のお金が101万円に増える間に、100万円のモノが102万円に値上がりすること
になるので、1年後、102万円のモノを101万円では買えません。お金が減っているのと同じことになる
わけです。
昭和の時代はこのような状態が長く続いていました。だからこそ、当時のお金持ちの人たちは、お金を
持っていたら預貯金だけでなく、株式や不動産などにも分けて保有しておいたほうがいいと言っていた
のです(財産三分法の考え方)。インフレ時代は、お金よりモノで持つ。モノに近い株式や不動産が有
効だったわけです。
現在も株式や不動産が物価上昇に有効かどうかは正確にはわかりませんが、日銀によるインフレターゲ
ット(年2%)が設定されていることからすると、2%程度の物価上昇はいつ起きてもおかしくないと言
えます。そのときに預貯金金利が2%以上になっていなければ、預貯金は実質的に目減りしていること
になります。だからこそ、株式や株式投資信託などを少しでも保有しておけば、多少なりともインフレ
に備えられるのではないかと考えられるわけです。
理由2:円安に備えるため
諸外国の通貨に対して円が安くなっていくと、円建てで保有している資産の価値は、相対的に目減りし
ます。例えば、1ドル=100円から1ドル=120円の円安になったとすると、ドルの価値が高くなる一方で
円の価値が安くなったことを意味するので、円の預貯金などの見た目の金額は変わりませんが、相対的
な価値は減ってしまったのと同じことになるのです。
もっと簡単な例で言えば、円安が進むと輸入品の値段が上がりますし、海外旅行に行くのによりたくさ
んのお金が必要になります。それだけ円のお金は相対的に減ってしまったわけです。そのような将来の
円安の可能性に備えるために、少しずつでも円以外の通貨を保有しておくべきだと言えるのです。
具体的には、外貨の現金や外貨預金を持つよりも、外国債券や外国株式などで運用している投資信託な
どを保有することで、間接的に外貨を保有することにはなりますので、先進国や新興国など、さまざま
な諸外国に分散投資している投資信託あたりを手始めに検討するのが無難かと思われます。
理由3:将来は何が起きていてもおかしくないから
今後、インフレになるのかデフレになるのか、円安になるのか
円高になるのか、正確には誰にもわからないと思います。ま
た、10年後や20年後、30年後の株価動向や金利動向などのマー
ケットの動向も、正確に言い当てることはほぼ不可能でしょ
う。だとすると、現在の株価の水準が割安なのか割高なのか、
為替の水準が円高なのか円安なのか、金利水準が低いのか高い
のかなどといったことは、過去と比べることはできても、未来
と比較することは不可能だということです。つまり、いまが買
い時なのか売り時なのかは、まったくわからないのです。
だからこそ、将来のさまざまな可能性に備えておくために、リスク商品も含めたさまざまな種類の資産
に分散して保有しておくことが無難ではないかといえるわけです。将来、日本経済は飛躍的に成長して
いる可能性もありますし、いま以上に衰退している可能性もあります。国内株式だけでなく、国内債券
も持っておくべきでしょう。世界経済も、拡大している可能性もありますし、縮小している可能性もあ
ります。外国株式だけでなく、外国債券も持っておくべきです。特に、将来、日本経済が破綻するよう
な万一の事態に陥る可能性にも備えておくなら、海外の資産は不可欠でしょう。
このように、起きてほしくないことをひとつひとつ想定して備えようとすれば、必然的にリスク商品が
選択肢に挙がってくるはずです。債券、株式、投資信託などのリスク商品は、収益を狙っていくための
商品ではなく、さまざまなリスクに備えるための商品であるとも考えられるのです。そう考えると、誰
もが多少なりとも保有しておくべきであることが理解していただけるのではないかと思うのですが、い
かがでしょうか。
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