金融庁が投信の回転売買と過剰分配に対 する監督強化?【2013年 第3回】

【2013年 第3回 金融庁が投信の回転売買と過剰分配に対する監督強化?】
最新ニュース解説。FPとして言わせていただくと…

菱田 雅生 

金融庁による「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」が改正され、8月27日から適用されている新たな指針では、特に来年から始まるNISA(少額投資非課税制度)の利用者向けの取引の勧誘について、投資信託の短期間での乗り換えや、過剰に分配金を出すファンドなどは、NISAの制度趣旨に馴染まないと明記されました。

はたして投信の回転売買や過剰分配のファンドはなくなっていくのでしょうか。今回はこの点について考えてみたいと思います。

 

●「少額投資非課税制度を利用する取引の勧誘に係る留意事項」が新設

金融庁による「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」が改正されました。8月27日から適用が
始まっていますが、新指針では、「少額投資非課税制度を利用する取引の勧誘に係る留意事項」という
項目が新設され、NISAの制度趣旨に鑑みて、「短期間で金融商品の売買(乗換え)を繰り返すような取
引」は「馴染まないもの」と明記されました。
投資信託などの短期売買(回転売買)は、販売会社の手数料稼ぎのために行われるケースが多いので、もともと好ましくない取引だといえますが、NISAの場合は年間100万円の元本に対する利益が5年間(ロールオーバーすれば10年間)非課税になるといっても、一度売却してしまうと同じ枠は二度と使えなくなるので、短期売買だとNISAのメリットを十分活かせない可能性があるからです。

筆者も十数年前、証券会社の営業マンとして支店勤務をしていましたので、毎月の「割り当て」という
名のノルマに追われ、投資信託の短期売買(回転売買)をすすめている営業マンがたくさんいたことを知っています。バブル崩壊後の厳しいマーケット環境のなか、日々の数字を追っていくためには、顧客利益の優先というのが建前としてありつつも、現実はなかなかそうもいかなかったのでしょう。
時は流れ、コンプライアンス(法令遵守)が声高に唱えられる時代になりました。昔ほどのヒドイ回転売買は減っているとは思われますが、金融機関等が営利企業として存在し、支店などの現場では数字を追う日々であることに大きな違いがないとすると、多かれ少なかれ顧客利益を100%優先しているわけではない状況があるはずです。それが今回の監督強化で、仮にNISAの利用者のみに限定されたとしても、中長期的な資産形成を支援するスタンスであるかどうかをきちんと監督するという方針は歓迎できます。

●「長期投資」と「長期保有」は違う

ただし、わずかな懸念として、短期売買のすべてがいけないかのように誤解されてしまうのはよくないと思います。マーケットの状況や商品の状況によっては、いたずらに長期保有することがマイナスにはたらく場合もあるからです。
確かに、投資信託は中長期的なスタンスで利用を検討すべきですが、運用実績の悪化や運用会社の運用体制の悪化など、さまざまな要因でファンドの純資産が減り続けるような状況に陥る場合があります。
最悪、繰り上げ償還になるファンドもないとはいえないのです。やはり投資信託は、ただただ長期保有をするのではなく、中長期的な視点に立って利用しつつも定期的な見直しの必要性の検討が大切だと思われます。それこそが長期投資だといえるでしょう。

●顧客に対する説明態勢の整備についても監督

来年のNISA開始に合わせて初めて投資を行う人や若年層など、知識や経験の浅い顧客の利用も想定されることから、金融機関等に対する監督として、顧客への説明態勢の整備についても留意するようです。
特に、顧客の金融リテラシー向上への取り組みや、NISAの利用に関する説明などの必要性が細かく示されました。簡単に言えば、顧客の知識や経験、運用についての考え方などが向上するように、投資に関する基礎的な情報を適切に提供する必要があるということ。そして、NISAの説明では、メリット・デメリットをわかりやすく説明する必要があるということです。NISAの説明での具体的な話は、過剰な分配金を出しているファンドについて、分配金のうちの元本払戻金(特別分配金)は自分の元本に相当するもので、もともと非課税であることからNISAの恩恵を受けられない、などの注意点を説明すべきだとしています。

個人的には、中長期的な資産形成を考える場合、分配金は出ないファンドのほうが利益に対する課税の繰り延べ効果が期待でき、複利効果も大きくなるため、年に何回も分配金を出すファンドは魅力的ではないと言い続けてきました。それが今回のことで、多少なりとも行き過ぎた分配金競争が是正されるのであればよいことでしょう。分配金の多く出ているファンドがいいファンドかのように誤解させる販売手法もこれで少なくなってくれればいいと思います。

とはいえ、今回の金融庁の監督強化で状況が劇的に変わるかというと、それほどの変化はないかもしれません。ただ、いままでになかったNISAを利用した取引の勧誘についての留意事項が明記され、金融リテラシー向上への取り組み状況などもチェックされるというのは、少しずつ顧客利益を優先する方向への変化していく流れとして歓迎すべきことでしょう。

 

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